補助者が見た偽りの記録

補助者が見た偽りの記録

補助者が見た偽りの記録

朝の静けさと一本の電話

役場帰りに立ち寄った事務所のドアを開けると、まだ誰も来ていなかった。
冷えた空気と機械のうなりだけが室内を支配している。
そんな静寂を破ったのは、一本の電話だった。

登記申請人の顔が揺れる

「新しく購入した土地の所有権移転登記をお願いしたい」と語るのは、
髪を七三に分けた真面目そうな男。だが、身分証の写真と顔立ちが微妙に違う。
違和感はあるが、確信に至るには何かが足りなかった。

サトウさんの違和感

事務所に入ってきたサトウさんが男を見るなり、眉をひそめた。
「シンドウさん、この人、先週別名で登記の相談に来てました」
彼女はそう言いながら、さっと前の相談記録を取り出して見せた。

委任状に潜む微妙な差異

男が差し出した委任状は整っているように見えたが、筆跡がどこか不自然だった。
字の太さ、角の曲がり方、そして何より“住所”の表記が旧字を使っていた。
サトウさんが言うには「この手の人、よく昔の書式からコピペするんですよ」とのこと。

やれやれ、、、確認不足は俺の方か

気づけなかった自分が情けない。
一度は「問題ないですよ」と言いかけた口を押さえる。
うっかりを反省しつつ、男の目を見ると、彼はすでに退路を探していた。

疑念を裏付ける住所の転移

法務局で確認を取ると、その住所にはすでに別の人物の名義がある。
しかも、その変更登記はつい先月行われていた。
不自然に早すぎる名義変更と、本日の申請希望内容。どうも臭い。

元妻を名乗る女性の訪問

翌日、事務所にひとりの女性が現れた。
「この登記、私の元夫が勝手にやろうとしていると思うんです」
彼女が出した離婚届の写しと旧姓時代の登記記録が、全てを物語っていた。

登記簿謄本と偽造印鑑

印鑑証明書を取り寄せると、そこに使われている印影と、今回の委任状の印影が微妙に違う。
微差ではあるが、サトウさんの目はごまかせない。
「これ、フォトショで重ねたらズレますよ」と彼女は自信たっぷりに断言した。

野球部時代の記憶がヒントに

高校時代、部室に置いていた印鑑が盗まれたことがあった。
それが後に悪用され、新聞沙汰になった。
あの時と似たにおいがする。形式だけ整えれば通る、そんな発想。

サトウさんの裏調査

その晩、サトウさんが持ち帰った申請書類を再チェックしていたようだ。
「この人、ネットで住所貸しますって商売してる人ですよ」
深夜、彼女から送られてきたリンク先には、複数の偽名が並んでいた。

決定的証拠は届出印の変化

男が本日提出してきた印鑑証明と、過去の登記の届出印を重ねるとズレが明確だった。
しかも筆跡鑑定では“筆圧”のパターンも違うと出た。
これで“本人”ではないと断定できる。

証明写真が語る二重生活

さらに、別件で提出された住民票の添付書類にあった証明写真。
明らかに髪型も輪郭も異なる。
少し前まで別の人物になりすましていたことは明白だった。

謄本と日付に潜む嘘の痕跡

登記完了予定日と実際の引渡し予定日が一致していない。
裏を返せば、偽名義で売却し、現金を得たあとに姿を消すつもりだったのだろう。
つまり、登記自体が“逃げ道”だった。

補助者の洞察と司法書士の一手

「このまま進めたら、司法書士としての信用が崩れるところでしたよ」
サトウさんの冷たい一言に背筋が伸びる。
俺は法務局に報告し、登記申請を正式に取り下げた。

嘘の連鎖を断ち切った一言

「やっぱりあんた、本人じゃないですよね」
サトウさんの鋭い一言に、男は顔を強張らせた。
そのまま警察に同行をお願いし、彼の嘘の連鎖はようやく終わった。

再発防止のための反省会議

「もう少し私の言うこと、初めから聞いた方がいいですよ」
コーヒーを飲みながら、サトウさんは小さくため息をついた。
やれやれ、、、本当に頭が上がらない。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓