封筒に眠る真実

封筒に眠る真実

封筒に眠る真実

朝の郵便受けに差し込まれた異変

ある朝、事務所のポストに赤いレターパックが差し込まれていた。差出人の欄には、見覚えのある名前が走り書きされている。しかし、その人物はつい先週「もう相談することはない」と言い残して去ったはずだった。
レターパックには妙な重みがあった。厚紙に包まれた書類のようでもあり、何か別のものが封入されているような気もした。

赤いレターパックの中身

封を切ると、中から出てきたのは契約書のコピーと、一枚の手書きのメモだった。メモには「彼が嘘をついています。この日付を見てください」とだけ書かれている。まるで探偵漫画の糸口のようだ。
契約書は不動産の売買に関するもので、依頼者として先週の相談者の名が記載されていた。だが、記載された日付は、すでに破談となったと聞かされていたものと食い違っている。

依頼者の突然のキャンセル

一週間前のこと、相談者は「急に売買の話が白紙になった」と言ってきた。買主側の都合とも言っていたが、どうにも腑に落ちなかった。
妙に曖昧な態度で書類も持ち帰り、電話にも出なくなった。だが今、ポストに投函されたこのレターパックは、まるで「助けてくれ」と叫んでいるかのようだ。

サトウさんの冷静な視線

「どうせまたうっかり処理ミスでもしたんじゃないんですか?」と、塩対応のサトウさんが言う。彼女はメモと契約書に目を通すと、ふと眉をひそめた。
「これ、署名の日付と印紙の日付、ずれてます。しかも、印影が薄い。誰かが後から偽造してるかもしれませんね。」
やれやれ、、、朝から胃が痛くなる話だ。

書類の封入ミスか偽装か

確かに書類の一部にズレがある。署名だけが不自然に濃く、その他の印影が妙にぼやけていた。これはただのコピーじゃない。誰かが「加工」している。
契約書を偽造してまで何を守ろうとしているのか。それとも、逆に何かを隠したいのか。

差出人の住所が示す矛盾

サトウさんが住所をグーグルマップで検索してくれた。「これ、廃墟ですよ。五年前から人なんて住んでません。」
つまり、誰かがあえて使えない住所を使って、こちらに「届けた」ことになる。本来なら受け取れない。なのに、なぜか届いてしまった。
怪盗キッドが予告状を投函するなら、きっとこうするだろう。あえて回収させるために。

登記の履歴に残る影

登記情報を確認すると、件の物件には過去に複数の仮登記が繰り返されていた。しかも、同一人物が数回関与している。
「名義を一度変えてから、もう一度戻してますね」とサトウさん。まるで誰かが履歴を隠そうとしているようだった。

かつての依頼人と未登記の家

ふと、三年前にあった未登記の相続案件を思い出した。今回の依頼人は、その時の関係者だった。
未登記の空き家を買い取る代わりに、現金での取引を強く希望していた。不審に思いつつも、そのときは登記だけを終わらせたが、あれが始まりだったのか。

サザエさん的すれ違いが生む真実

実はその契約は成立しておらず、当時の売主は認知症で意思能力に問題があった。だが、誰もそれをきちんと確認しなかった。
それが今になって蒸し返された格好だ。まるでサザエさんの「波平さんの大事な手紙がタラちゃんに破られてた」的なオチのように、何か一つがズレたことで全体が狂ってしまった。

決め手となったのは印影の擦れ

印鑑のかすれ方。レターパックの底に、朱肉の粉がこぼれていたのをサトウさんが見つけた。「これ、投函してから誰かが中身を入れ替えてますね。」
つまり、最初の封入者と今の中身は一致しない。そして中身をすり替える手段があったのは……配達員を装った第三者か、同居人の線が強い。

投函時間が暴いた嘘

郵便局に確認を取ると、そのレターパックが投函されたのは深夜1時過ぎだった。そんな時間に本局まで行けるのは限られている。
「つまり、あの人しかいないですね」サトウさんが静かに言う。

サトウさんの見立てと真実の合流

結局、偽装を仕掛けたのは依頼者の兄だった。妹の持っていた書類を使って、無断で契約を進めていた。発覚を恐れ、レターパックで密告のふりをしたのだ。
「ちょっと小賢しい真似をするなら、もっとちゃんと紙質まで気にすべきです」サトウさんの冷静な指摘が容疑者を追い詰めた。

レターパックが語った無言の証言

証拠のすべてが封筒の中にあった。偽造された契約書、書きかけのメモ、こぼれた朱肉。それらが静かに、しかし確実に真実を語っていた。
封筒はしゃべらない。だが、それは立派な証人になりうる。

悔しがる容疑者と封筒の正体

兄は取り調べで「まさか司法書士に気づかれるとは」と唸った。だが、こちらとしては「サトウさんがいなければ気づいていない」が正直なところだ。
やれやれ、、、結局、また彼女に助けられてしまった。

本当の依頼はまだポストの中

事件が終わっても、ポストにはまた新たな封筒が差し込まれていた。今度は誰の声が入っているのか。そう思いながら、私はそっとレターパックを手に取った。
今日もまた、封筒の中に真実が眠っている。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓