十三人目の権利者

十三人目の権利者

夏の終わりの電話

一本の着信からすべてが始まった

朝の9時すぎ、いつものように郵便物を整理していたら、事務所の固定電話が鳴った。
非通知設定の番号だったが、なんとなく嫌な予感がして受話器を取った。
「母が亡くなりまして、相続手続きの相談を…」と、女性の声が沈んでいた。

多すぎる戸籍謄本

誰が本当の相続人なのか

送られてきた戸籍は合計20通以上。明治時代に遡る家系図のようだった。
古い養子縁組、離婚歴、認知、再婚…。それぞれが複雑に絡んでいる。
まるで「こち亀」のキャラ紹介ページでも見ている気分だった。

サトウさんの塩対応

冷静な判断が救いだった

「これ、マジで全部洗うんですか?やれやれ、、、」とサトウさんが呟く。
その顔には呆れた表情と同時に、わずかな楽しさもにじんでいた。
僕はというと、思考停止状態で冷たい麦茶に手を伸ばすしかなかった。

謎の人物の登場

戸籍に現れた見知らぬ名前

ある時、1通の改製原戸籍に「竹之内ヒロト」という名前が現れた。
依頼人の記憶にも、過去の関係者にもその名前は出てこない。
「彼は誰なんだ?」事務所に重苦しい空気が流れた。

検認された遺言書

新たな火種が放たれる

「自筆証書遺言が見つかりました」と言って依頼人が封筒を持ってきた。
そこには、ある特定の人物にすべての財産を相続させる旨が記されていた。
だが、その人物の名前がまた例の「竹之内ヒロト」だったのだ。

法定相続人の反発

遺言を巡る戦争の幕開け

「そんなやつ聞いたことがない!」「無効にできないんですか?」
相続人と名乗る者たちが次々に事務所を訪れては口論を繰り広げた。
サザエさんの家族会議でさえ、ここまでカオスではない。

調査開始

元戸籍係からの情報

僕は旧知の市役所の戸籍係に頼み込み、竹之内ヒロトの情報を洗い始めた。
するとヒロトは、昭和の初期に養子縁組されていたことがわかった。
だが、謎は深まるばかり。生死すらも不明のままだった。

見えてきた動機

隠された遺産の存在

なぜわざわざ戸籍に現れないような人物に相続させたのか。
調べを進めるうちに、ある未登記の山林の存在が明らかになる。
「埋蔵金でも出てくるんじゃ…」なんて冗談も、笑えなかった。

十三人目の権利者

予想外の人物が真相を語る

ある日突然、初老の男性が事務所を訪れ「私がヒロトです」と告げた。
その声は確かに、遺言に記された人物のものと一致した。
しかも彼は、依頼人の母親と深い絆で結ばれていたという。

静かに終わる夏

遺産を巡る戦いのあとに

最終的に、全員が合意した内容での遺産分割協議が成立した。
訴訟にならなかったのは奇跡か、ヒロト氏の人柄か。
僕とサトウさんはようやく帰宅の準備に取り掛かった。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓