朝の静けさを破った一通の依頼
封筒に記された奇妙な文字
とある月曜の朝、事務所に届いた分厚い封筒には、見慣れた書式の登記申請書が入っていた。ただ一つ、異様だったのは「登記原因」欄に記された「復讐」の二文字。
「誰がこんなふざけた内容を書いたのか……」と思ったが、添付された委任状も印鑑証明もすべて本物だった。サトウさんが黙ってコーヒーを淹れてくれた。胃が痛くなる。
復讐と登記は相容れない
司法書士としての職責
司法書士たる者、復讐などという不純な動機で登記を進めることはできない。
しかし依頼者の署名捺印、必要書類はすべて整っていた。「復讐」とは何を意味しているのか?法務局の登記官が弾くだろうという思いで、つい受任してしまった。
やれやれ、、、この性格が災いする。
依頼人は笑っていた
古びたビルの一室にて
「復讐です。合法の範囲でやりたかったんですよ」
依頼人は元不動産会社勤務の男で、退職後に古いアパートの名義変更を進めていた。「この物件は、昔俺を地獄に落とした上司が隠してた資産なんですよ」
そう言って笑った顔には、どこか空虚さが滲んでいた。
不審な法定相続情報一覧図
誰も知らなかった隠し子
登記の経緯を調べるうち、前所有者には公にされていなかった「相続人」が存在することが判明した。
不自然な遺産分割協議書に、サトウさんの目が鋭くなる。「これ、筆跡が同じですよね」……え?まさかの自作自演?
サザエさんだったらここでタマが「ニャー」と鳴くタイミングだ。
サトウさんの鋭い指摘
文書偽造の可能性
「この委任状、印鑑証明の日付が変なんです」
言われて確認してみると、確かに亡くなった日より後の日付の書類が存在していた。つまり、死人の意思による登記手続き……?
ゾッとした。ここまであからさまなのは久しぶりだ。
裏を取るための夜の調査
法務局と市役所をはしご
誰かに頼まれたわけでもないが、いてもたってもいられず資料を集めに走った。
まるでコナンのごとく証拠をかき集めていくうちに、あるパターンが浮かび上がった。「これ、完全にやってますね」
思わずつぶやくと、サトウさんは何も言わずにうなずいた。
登記原因に隠された真意
本当の復讐とは
依頼人は、過去の恨みから不正な登記を成立させようとしていた。ただ、それを自分の名前で実行し、わざわざ「復讐」と記したことが気になった。
これはある意味、罪の告白ではないか?自分で自分を裁かせるように仕向けた……?
司法書士は記録を残す者、だからこそ気づけた歪みだった。
裁かれるべきは誰か
元上司か、それとも
不正登記に至った経緯の裏には、前所有者の脱法的な土地取得や、税金逃れのスキームがあった。
依頼人が言う「復讐」とは、単に感情の発露ではなく、社会的な懲罰でもあったのかもしれない。
やれやれ、、、それにしても陰鬱な話だ。
司法書士としての判断
登記は却下された
結局、登記官が「登記原因が不適当」として却下し、依頼は宙に浮いた。
だが、それでよかったのだと思う。僕のような司法書士は、あくまで法の枠で人を支える存在であるべきだ。
たとえそれが泥だらけでも、誰かの心を守る壁でいたい。
サトウさんのひと言
塩対応に救われる
「やっと終わりましたね。で、今日のお昼はまたカップラーメンですか?」
うっ……。元野球部のプライドがまた傷ついた。
「今度こそ、サザエさんのエンディングみたいに、楽しく終わりたかったなあ」
それでも、今日も事務所はなんとか平和だ。