住民票は知っていた

住民票は知っていた

朝の一杯とサトウさんの視線

朝のコーヒーは、心を落ち着かせるための儀式のようなものだ。
それなのに、今日はサトウさんの視線が妙に鋭い。
「昨日の案件、資料逆でしたよ」と言われ、湯気の立つマグカップをそっと戻した。

コーヒーは冷めても言葉は刺さる

「確認しましたって言いましたよね」
サトウさんの言葉に、心臓がきゅっとなる。
やれやれ、、、朝から反省文モードである。

消えた住民票の相談者

そこへ訪ねてきたのは、年配の女性だった。
「息子の住民票がどこにもないんです」と、手にした戸籍の束を差し出す。
転出届も転入届もない。どこにも、彼の痕跡がないのだという。

謎の依頼と三年前の住所

聞けば、彼は三年前に突然姿を消したらしい。
最後に住んでいたのは、隣町の古いアパートだった。
だが市役所に確認しても、住民票の記録はすでに抹消されていた。

戸籍と住民票のズレ

戸籍は実家に残されたままだが、住民票はなぜか空白のまま。
不自然な空欄は、意図的に削除されたようにも見える。
まるでその人物が最初から存在しなかったような処理だった。

どこにも存在しない転居記録

転出先も、転入元も記録されていない。
本人確認書類も更新されておらず、銀行口座も凍結されたまま。
まるで時を止めたかのような、完璧な「不在」だった。

やれやれ口に出す前に

古い書類をひっくり返しながら、つい口に出そうになった。
「やれやれ、、、」だが、今は言ってる場合ではない。
見落としの多いこの手の話ほど、落とし穴があるのだ。

役所の窓口での違和感

市役所の担当者は妙に歯切れが悪かった。
「記録上は消えていますが、それ以上は言えません」と繰り返す。
何かを隠している雰囲気があり、ますます怪しい。

登記簿の余白が語るもの

気になって調べたのは、件のアパートの登記簿だった。
そこに記されていたのは、住人名の訂正と所有者の変更履歴。
あまりにもタイミングが一致しすぎていた。

サザエさんの三河屋的訪問

「シンドウさん、また変なとこ行ってるんですか?」とサトウさん。
まるで三河屋さんのように、事務所を抜け出して聞き込みに走る私を見てため息。
だが現地での一言が、事態を大きく動かした。

お隣さんが見た最後の姿

「引っ越す前、夜中にスーツ姿の男と出て行ったのを見ましたよ」
証言してくれたのは、アパートの隣人の老婦人だった。
「でもトラックとかは来なかった。不思議でしたね」とのこと。

生きている証明と消えた記録

この証言は、生存の裏付けとなるが、行政記録は空白のまま。
つまり、誰かが意図的に「生きていないこと」にした。
その動機がどこにあるのかを掘り下げる必要がある。

嘘をついたのは誰か

母親、役所、隣人、登記簿、全てを照らし合わせて浮かんできた名前。
元アパートの所有者だった男が、どうやらキーマンのようだ。
過去に不正登記で摘発された経歴もある。

転入届の筆跡が暴く真実

調査の末、旧町で提出された転入届を確認する。
そこには、息子の名前があったが、筆跡が本人のものではなかった。
それは元所有者の筆跡と一致していた。

サトウさんの冷たい推理

「偽造ですね。登記も住民票も操作されたんでしょう」
サトウさんの言葉は氷のように冷たく、だが的確だった。
確かに、所有者変更の裏にこの不在工作が関係していた可能性がある。

印鑑登録の落とし穴

さらに調べると、息子名義での印鑑登録が残っていた。
しかし、それは亡くなった別人のものを転用していたことが判明。
ここにきて、事件は単なる失踪ではなくなった。

封筒の宛名に込められた罠

母親のもとに届いた一通の封筒。
差出人欄には息子の名前が記されていたが、中身は白紙だった。
偽装の匂いが濃厚になる中、サトウさんは冷静だった。

裏書きされた真実

押収された所有権移転の契約書の裏に、本人らしき署名が残っていた。
ただし、日付は失踪後。つまり誰かが後から本人のように書いた。
専門家鑑定の結果、それは元所有者の筆跡と一致。

最後に動いたのは誰の意思か

「息子さんは、おそらく逃げてるんですよ」とサトウさん。
財産目当ての詐欺に巻き込まれ、姿を消した可能性が高い。
住民票は、彼の生存を隠す盾だったのだ。

答えは書類の裏側に

役所も警察も、彼を死亡扱いにしようとしたが、証拠は残っていた。
ほんの小さなズレが、真実を紡いだ。
そして司法書士の私は、その線をつないだに過ぎない。

紙の中の亡霊

人は記録に残されて初めて、社会に存在する。
逆に言えば、記録から消えれば、いなかったことになる。
住民票は、それを証明する鏡なのだ。

司法書士の出番です

「書類を信じすぎてもダメですね」
サトウさんがポツリとつぶやく。
やれやれ、、、俺の出番はまだまだ終わりそうにない。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓