登記簿が暴いた過去の影

登記簿が暴いた過去の影

登記簿が暴いた過去の影

今日も朝から書類の山に埋もれていた。パソコンの前に座るだけで汗がにじむ季節、エアコンの効きも悪い。
机の端では、いつものようにサトウさんが淡々と入力作業をこなしている。まるで『サザエさん』の中のワカメちゃんが大人になったらこんな感じかもしれないと思った。
そんな中、電話が鳴った。依頼の匂いがする。だが、嫌な予感もした。

平穏を破る一本の電話

「先日亡くなった父の土地について相談したいんです」
声の主は若い女性だった。内容は相続登記のようだったが、口調の端々に不安がにじんでいた。
電話を切った後、サトウさんがつぶやいた。「なんか引っかかりますね」その直感、信じることにした。

訪れた依頼人は涙を隠していた

午後、事務所を訪れたのは30代前半の女性、喪服姿が印象的だった。
「父とはあまり話せていませんでした。ですが…この土地は、思い出が詰まってるんです」
彼女はそう言いながら、古い登記事項証明書を差し出してきた。そこには、妙な記載があった。

調査の鍵は古い土地の登記簿

提出された登記簿は平成初期のものだった。だが現在の登記簿と照合すると、所有者の名前が異なっていた。
「こんなはずはないんです。父はここを大事にしてたのに…」
事情を聞くにつれ、これはただの登記漏れではないと感じた。

シンドウのうっかりが招いた波紋

「あっ…やべ、登記簿の閲覧日を一日間違えた…」
いつものようにうっかりが炸裂した私に、サトウさんの視線が突き刺さる。
「確認作業は私がやります。もう結構です」その冷静さと塩加減が心に沁みた。

サトウさんの冷静な一言

「この土地、過去に二重登記されてた形跡がありますね」
そう言って彼女が差し出したのは、閉架から取り寄せた過去の閉鎖登記簿だった。
「同じ時期に二人の名前で登記がされている…これはおかしいです」

二重登記の謎が示す意外な関係

登記簿を詳しく見ると、同じ地番に二つの所有権移転登記がされていた記録があった。
一つは依頼人の父の名義、もう一つは見知らぬ男の名。
この男こそが今回の事件の核心に関わっていると直感した。

亡き父の署名は本物か偽物か

相続時の書類に添えられた遺言書には、父の署名があった。
だがその筆跡が、別の時期の登記申請書にあるものと微妙に違っていた。
「筆跡鑑定までは無理ですが、少なくとも違和感はあります」とサトウさん。

登記簿の記載ミスに潜む真相

役所の登記官も一時期混乱していたらしく、備考欄には訂正と再訂正の記録が並んでいた。
普通の人なら見過ごすような記載だが、司法書士にとっては重要な手がかりだ。
「この再訂正、実は元々の書類が偽造だった可能性がある」私の推理が動き始めた。

昔の野球部仲間との偶然の再会

「シンドウ?お前か?!」
登記簿の名義人の調査を進めるうちに、なんと高校時代の野球部仲間の名前が出てきた。
球場で汗を流していたあいつが、こんな形で再会するとは…。人生とは妙なものである。

迷走するシンドウ 進むサトウ

私は思い出に浸っていたが、サトウさんは容赦なかった。
「その方、実は不動産ブローカーとして問題になったことがあるようです」
彼女の調査は警察レベルだった。いや、下手な探偵よりすごいかもしれない。

遺言と登記情報の食い違い

再度確認したところ、遺言書の中の地番が微妙に誤っていた。
「登記簿には’三丁目’、遺言書には’三丁’。これ、ミスじゃなくて意図的かもしれません」
「つまり、誰かが登記を別人に通すためのトリックだと?」私は少しだけ名探偵気分だった。

登場した第三の人物

依頼人の兄が突然姿を現した。「この土地は兄貴のものだ」と一方的に言い張る。
だが証拠となる登記も遺言もない。話は二転三転する。
やれやれ、、、また家庭の事情がややこしい。まるで昼ドラの世界だ。

法務局で掴んだ決定的証拠

法務局の記録の中から、平成8年の登記申請書のコピーを見つけた。
そこには父の署名とされる箇所に、なんとボールペンで書かれた二重線の訂正印が。
筆跡と印影のずれ、そしてその提出者が第三者だったことがすべてを物語っていた。

真犯人の動機と過去の因縁

名義を偽装していたのは、依頼人の兄と野球部仲間だった。
兄は借金を抱えており、仲間は金の匂いに目ざとかった。
土地の価値が上がるのを見越して、偽装相続を仕掛けたということだ。

解決後に残る依頼人の微笑

「本当に、助かりました。父の土地を守れてよかったです」
依頼人は深々と頭を下げた。久しぶりに「ありがとう」と言われた気がした。
サトウさんは「当然のことをしただけです」とつぶやき、机に戻った。

やれやれ また紙の山かとつぶやく午後

解決の余韻に浸る間もなく、新しい登記申請書がファックスで届いた。
「ほら、次行きますよ」とサトウさん。
やれやれ、、、事件よりこっちのほうが恐ろしい。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓