仮登記簿に沈んだ真実

仮登記簿に沈んだ真実

仮登記簿に沈んだ真実

朝のコーヒーと届いた封筒

蒸し暑い夏の朝だった。コンビニのアイスコーヒーを片手に事務所へ戻ると、机の上に一通の分厚い封筒が置かれていた。差出人の名前に見覚えはない。 妙な胸騒ぎがした。何か、厄介な匂いがする。 こういう時に限って、サトウさんの機嫌も悪いのだ。

サトウさんの無言の一言

「また面倒な案件かもしれませんね」 そう言って書類を一瞥したサトウさんは、何も言わずにPCを開いた。 おそらく中身をちらっと見ただけで、だいたいの察しはついたのだろう。やれやれ、、、朝から胃が痛い。

仮登記の中に浮かぶ違和感

封筒に入っていたのは、ある地方の土地に関する仮登記の相談だった。 仮登記は昭和の終わりに入っており、本登記への移行がなされていない。 しかもその土地は、地元では“幽霊地”として知られているという。

持ち主不明の土地の謎

依頼人は「この土地を相続して売却したい」と言うが、現在の登記名義人は明らかにその血縁ではなさそうだった。 戸籍をたどってもつながりがない。まるで誰かが意図的に仮登記を放置しているかのようだった。 これは単なる不動産相談じゃない。

ふと目に留まった古い公図

押入れの奥にしまっていた公図のコピーをサトウさんが引っ張り出してきた。 昭和52年の図面には、隣接する土地に奇妙な「通路」が記されていた。 その通路は今は完全に消えており、まるで誰かがなかったことにしたかのようだ。

法務局での沈黙

久しぶりに訪れた地方法務局。窓口で仮登記の経緯を尋ねると、年配の職員が明らかに顔を曇らせた。 「その案件は、、、あまり関わらない方が良いですよ」とだけ言って、後は一切答えてくれなかった。 気まずい沈黙だけが、時間を押し流していった。

登記原因が語る過去の影

帰りの電車の中、私は登記原因証明情報のコピーを眺めていた。昭和58年「贈与」とある。 だが、贈与者はもう20年以上前に亡くなっていた。 そして受贈者の住所が、奇妙に中途半端に消されていた。

依頼人の態度に滲む不信

依頼人に再度会って事情を聞いたが、彼は「もう祖父が生きていた頃のことなんで」と曖昧に笑った。 しかし、目の奥が笑っていなかった。あの目は何かを隠している。 私は胸の中に、答えの出ない問いを抱えたままだった。

昭和の登記簿に隠された名前

古い登記簿謄本を読み返すうちに、ある名前が浮かび上がった。「三崎豊」。どこかで聞いたことがある。 昔、週刊誌をにぎわせた政治献金事件に関わっていた土地成金の名だ。 まさか、ここに繋がってくるとは。

あの村にだけ残る旧慣

調べを進めるうち、その土地がある村には「家制度」が色濃く残っていたことが分かった。 登記簿上の名義よりも、「村で認められた継承者」が優先されるという暗黙の了解があったのだ。 これは法では裁けない世界だ。

やれやれまた一癖あるやつか

「これ、触れたら厄介なやつですよね」 サトウさんがぽつりと言った。私は思わず苦笑いした。 まるで怪盗キッドの仕掛けを解くコナンくんのような気分だ。やれやれ、、、また一癖あるやつか。

サトウさんの調査報告に震える

翌日、サトウさんから届いた調査メモにはこう書かれていた。 「仮登記の受贈者はすでに死亡。ただし、本人確認情報を偽造して、本登記が数年前に別の土地でなされていた記録あり。」 つまり、別人になりすました者が仮登記を“悪用”していたということだ。

名義の継承と断絶の真相

元々の土地は三崎豊の愛人に贈られたもので、彼女が亡くなったあと、誰にも知られず放置されていた。 だが、その「空白の所有権」を利用して不正に利用されたのだ。 今回の依頼人も、その流れに乗った一人に過ぎなかった。

消えた所有者と捨てられた証文

結局、真の所有者は誰にも確定できなかった。 依頼人は追及される前に姿を消し、証拠になりそうな証文も、火事で焼けた家と共に失われていた。 私は手帳に、こう書いた。「闇に沈んだ仮登記。これは終わらない。」

土地の境界に立った時の結論

その土地を訪れると、今は雑草に覆われ、誰の足跡もない。 境界杭は風化し、もはや曖昧だ。 だが、それがふさわしいのかもしれない。真実は、時に誰にも語られぬまま、静かに地中に埋もれていく。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓