未完の登記簿

未完の登記簿

登記完了の通知が届かない

「先生、まだ登記完了の通知が来ていません」とサトウさんが言う。
いつも通りの塩対応だが、その一言が妙に引っかかった。
提出してからすでに二週間、通常ならとっくに完了しているはずだ。

依頼人の言葉に違和感

依頼人の立花氏は「急がないのでゆっくりで」と言っていたが、
本当に急がないのか、それとも急がせたくない理由があるのか。
サザエさんの波平のように、穏やかに見えて中身は別人かもしれない。

書類の山に潜む不一致

事務所の棚に積まれた登記関係書類を、僕は一枚ずつチェックした。
ふと見つけた申請書の一部が、依頼人から受け取った内容と微妙に異なる。
「やれやれ、、、」と独りごちる。これまた厄介なパターンの匂いがした。

現地調査の不審点

週末、現地を訪れた。
建物は古く、人が住んでいる気配はない。
隣家の老婆が「その家、もう十年以上空き家よ」とぽつり。

名義人の所在不明

登記簿上の所有者、田嶋某。
通知書は転送されず、電話番号も存在しない。
不動産業者に問い合わせると「その人、亡くなったはずですよ」との返事。

境界標の消失

土地の境界を確認しようとしたが、杭が見当たらない。
代わりに最近設置されたような真新しいフェンスが立っていた。
まるで誰かが意図的に痕跡を消したかのようだった。

サトウさんの冷静な分析

「登記の申請人、本当に田嶋さん本人でした?」
サトウさんはPC画面から目を離さずにそう言った。
僕は一瞬だけ黙り込んだ。申請書の印鑑照合が妙に雑だったことを思い出す。

古い謄本から浮かび上がる矛盾

僕は法務局で昭和の謄本を取得してきた。
そこには平成初期に名義変更された記録があり、現在と異なる内容だった。
つまり、何者かが過去の登記を巻き戻そうとしている……?

会話に出てこない家族の存在

再び立花氏に話を聞くと、「あの人には家族なんていませんでしたよ」と断言した。
しかし戸籍謄本を確認すると、長男がいることがわかった。
その長男は、現在行方不明とされていた。

地元住民が語る噂話

「ほら、昔あの家で事件があったって聞いたことあるわ」
近所の八百屋の店主がそう言った。
事件とは何か、と尋ねると、突然黙り込んだ。

昭和の名義変更の謎

昭和の終わりに行われた名義変更、その理由は「生前贈与」。
だが贈与契約書はどこにも見当たらない。
まるで書類だけが勝手に歩いたような、そんな奇妙な記録だった。

「あの家には誰も住んでいない」

もう一度現地へ足を運ぶと、ポストには誰宛でもない手紙が何通も詰まっていた。
鍵は開いていて、内部には生活感がまったくない。
まるで舞台セットのように、ただ「それっぽく」作られていた。

登記情報の空白が意味するもの

登記簿には不自然な空白期間があった。
どの司法書士が見ても「処理漏れ」や「ミス」に見えるだろう。
でも僕にはわかる。これは「誰かが意図的に触れなかった」記録だ。

最後にたどり着いた真実

立花氏は田嶋氏の長男だった。
そして、過去に父親が登記を巡る不正を働いたことを知っていた。
だからこそ、「未完」のまま終わらせようとしたのだ。闇に葬るために。

結局、依頼は取り下げとなった。
サトウさんは黙って報告書を印刷していた。
「サザエさんの家って、よく見ると不動産の闇が深そうですよね」と僕が言うと、「うまくまとめたつもりですか?」と返された。

やれやれ、、、司法書士ってのは本当に、地味でしんどい職業だ。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓