登記簿が暴く屋根裏の秘密

登記簿が暴く屋根裏の秘密

午前八時の訪問者

「朝から来るってどういう了見なんだ……」と愚痴をこぼしながらドアを開けると、そこには中年の男性が立っていた。 ボサボサの髪とくたびれたスーツが、彼の今の生活を物語っている。名刺には「○○不動産」とあったが、明らかに営業ではなさそうだった。 「父が亡くなりまして……実家の登記を見ていたら、変なことに気づいたんです」と男は口を開いた。

戸惑うサトウさんと書類の山

「また紙か……」とぼやきながらも、サトウさんはすでに机に広げられた地積測量図と登記簿謄本を確認していた。 「これ、昭和の頃の増築が反映されてませんね。というか……屋根裏部屋? これ何ですか?」と鋭い指摘。 やれやれ、、、また面倒な話になりそうだ。

古い地積測量図の謎

図面には、確かに通常の二階建て構造しか描かれていない。しかし、依頼人の話では「屋根裏に昔、誰かが住んでいた」という。 「昭和五十年に一度リフォームしてるそうです」と依頼人は言うが、その記録はどこにも見当たらない。 古い図面と現況とのギャップ、それがこの事件の始まりだった。

屋根裏部屋の存在

現況調査で撮影された家の外観写真には、妙に不自然な換気口が映っていた。 「この位置に通気口があるってことは……部屋があるってことだ」と俺が言うと、サトウさんが小さくうなずく。 「まあ、探偵漫画でよくあるパターンですけどね。普段見えない部屋に真実があるってやつ」と言いながら、淡々と記録を続けていた。

固定資産税通知からの違和感

さらに気になるのは、数年前から固定資産税の金額が微妙に上がっていたことだった。 「面積に変動があったんでしょうか」と俺がつぶやくと、サトウさんは「いや、それなら通知に理由が明記されます」ときっぱり。 誰かが、あえて黙っていたのかもしれない。

昔の増築と登記簿の不一致

古い書類の中に、昭和五十四年の日付の覚書が見つかった。そこには「屋根裏を居住可能に改装」と書かれている。 だが、法務局の登記簿にはそんな記載は一切なかった。 つまり、未登記部分がある――これは登記実務ではかなり面倒な部類だ。

依頼人の過去

「実は……父とずっと折り合いが悪くて」と依頼人は切り出した。 「高校の頃に家を出て、それ以来ほとんど話していませんでした。でも先月、突然亡くなって…」 残されたのは、使い古された家と謎の屋根裏部屋、そして登記簿だった。

父と息子の確執

遺品の中には、封筒に入った手紙もあった。「この部屋はあいつのために残した」と、走り書きでそう記されていた。 「でも、俺には子供なんていません」と依頼人は首をかしげる。 誰か、家族にも知られず住んでいた人間がいたのか?

遺言書に隠された言葉

正式な遺言書も見つかった。しかしそこには「この家の屋根裏部屋は特定の者に帰属させる」とだけ書かれていた。 名前も住所も記載されておらず、法的には曖昧すぎる内容。 「これは無効になる可能性が高いですね」と俺は言った。

現地調査の午後

午後から現地を訪れると、家の二階に確かに小さな梯子があった。 「これ、非常階段として設置されてるわけでもないですね」とサトウさんが言う。 まるで誰にも気づかれないように隠された通路のようだった。

建物図面にない階段

市役所の建築確認資料にも、その階段の記録はなかった。 つまり完全な無許可増築。屋根裏部屋が闇に包まれていた理由が少しずつ見えてくる。 それでも、そこには暮らしの痕跡が残っていた。

サトウさんの鋭い指摘

「これ……配線が新しいですね」サトウさんは壁のコンセントを確認していた。 「誰か最近まで、ここに住んでいたかもしれませんよ」 その瞬間、俺の背筋に寒気が走った。

屋根裏にあった封筒

埃だらけのタンスの中に、分厚い封筒が隠されていた。 「これ、登記済証の束ですね」とサトウさんが言う。 封筒には、知らない名前がいくつも書かれていた。

昔の売買契約書

「誰かがここで、個人的に不動産取引していたのでは?」 その中の一通には、手書きの売買契約書と印紙が貼られていた。 無届けで動かされていた家。これはもはや犯罪の香りすら漂っていた。

隠された名義変更の記録

古い謄本のコピーも出てきた。 名義人が一時的に別の人物になっていた記録……しかし、それは本登記には反映されていない。 「誰かがこの家を、裏で利用していた」と俺は確信した。

司法書士シンドウの推理

すべての記録と話を繋げると、一つの仮説にたどり着いた。 「お父さんは、昔の借金を返すために、この屋根裏を担保にしていたのでは?」 「でも、正式な登記はせず、契約だけで進めた。だから誰にも気づかれなかった」

登記簿の空白期間の謎

登記簿を見ると、昭和五十四年から平成初期まで、名義が動いていない。 しかし実際には、その間に使用者がいた痕跡がいくつもあった。 空白の期間、それがこの事件の核心だった。

登記官の見落としとその代償

もし当時の登記官がきちんと現況確認をしていれば、今回のような問題は起こらなかったかもしれない。 「まあ、昔は申請主義でしたしね」とサトウさんがぼそっと言う。 時代が変わっても、人の欲は変わらないということか。

真実の開示

封筒の中にあった契約書を元に、当時の相手方を追跡した。 数日後、その人物の子供が連絡をくれた。「あの家に、父が住んでいたのは事実です」と。 すべてが繋がった。

相続人の変更と法定手続き

今回の件で、新たな相続人としてその人物の家族を登記に加える必要が出た。 依頼人も、「本当に父がそうしたのなら、仕方ないですね」と納得した様子。 「感情と法律は別です」とサトウさんは淡々と言った。

遺言と登記が示す家族のかたち

屋根裏にあったものは、ただの部屋ではなかった。 それは、父が過去に選んだもう一つの家族とのつながりだったのかもしれない。 登記簿は、ただの紙ではなく人生の記録でもある。

静かな解決

事務所に戻り、書類をまとめていると、サトウさんが一言「やっぱり人間って面倒ですね」。 「ほんとだよ、サザエさんちみたいにみんな一緒に住めれば楽なんだけどな」と俺がこぼすと、 「あなたは波平タイプじゃないです。多分カツオ」と即答され、コーヒーを淹れにいった。

やれやれの午後四時

書類の山に囲まれながら、ようやく静けさを取り戻した事務所の午後四時。 「やれやれ、、、また変な案件が来なきゃいいけどな」と俺は小さくつぶやいた。 だが、この静けさも長くは続かないのだった。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓