またミスか…夢の中でも訂正印を押していた
「あ、またやってしまった」そんな夢を見て目が覚めた朝は、決まって寝汗でシャツが張り付いている。司法書士という仕事は、派手さはないが責任だけは重たい。寝ても覚めても「確認し忘れた箇所はなかったか」「誤記があったらどうしよう」と、そんな思いが頭から離れない。ある時期、毎晩のように登記簿の夢を見ていた。目の前に置かれた申請書に赤い訂正印を何度も押す夢。目が覚めてホッとするも、実際の現場でも似たようなことをしていたのだから笑えない。
現実でも苦しむ「ちょっとしたミス」が与える精神的ダメージ
ほんの一文字。間違えたのは、依頼人の住所の番地の「一」が「二」になっていただけだった。それだけで、補正通知が来て、依頼人に連絡し、陳謝して、訂正して、再提出。たったそれだけの流れでも、精神的にはボディーブローのように効いてくる。「なんであの時見直さなかったんだ」と、後から何度も思う。しかも、事務所には誰もミスを笑い飛ばしてくれる仲間はいない。黙って自分の責任として飲み込むだけだ。
依頼人の顔がよぎる夜
補正通知が届いた日、僕は夜になっても事務所の机を離れられなかった。机の上には、ミスした書類と、その依頼人の名義が書かれた資料。あの時の依頼人は、どこか頼りなさそうで「全部お任せします」と言ってくれた方だった。その顔が何度も頭をよぎる。信頼されていたのに、それを裏切ったような気分になる。何も悪意がなかっただけに、余計に悔しい。
夢の中の登記簿と目覚めた瞬間の冷や汗
夢の中では、何度訂正しても訂正が終わらない。書類の端から端までミスだらけで、訂正印の朱肉がどんどん薄くなっていく。挙句の果てには印鑑が行方不明になって、探し回る夢まで見た。そんなときに目が覚めると、ああ、現実だったのか、夢だったのか…混乱する。寝たはずなのに全然休めていない朝。これはたぶん、ちょっとした過労と、ちょっとした孤独のせいだと思う。
たった一文字のミスが、人生を変える重さに感じる
「一字違いで人生が変わる」なんて、少し大げさに聞こえるかもしれない。でも、登記の世界では、それが冗談ではない。書類の間違い一つで登記の効力が疑われたり、売買の期日に間に合わなくなったりすることもある。自分の手から依頼人の大事な人生の一部がすべり落ちてしまう、そんな感覚になる。
「訂正できるミス」と「許されないミス」の境界線
訂正印で直せば済むミスもあれば、根本的に信頼を損なうミスもある。補正通知で済んだ時はまだマシで、過去には「この司法書士には依頼できない」と言われたこともある。正直、へこんだ。あれからは何度も「辞めたい」と思った。だけど、「じゃあ辞めて何する？」と考えると、真っ白になる。結局、また書類の山に向かっている。
怖いのは、気づかないまま提出したあとの電話
提出して帰ってきた後の午後三時頃。電話が鳴って、法務局の担当者から「訂正していただきたい箇所が…」と、静かな声で言われる瞬間。あれが一番怖い。もう心臓がギュッとなって、手元の書類が一瞬で汗ばむ。事務員に確認しても、自分で確認しても、ミスを見逃してしまう日がある。そのたびに「人間なんだから」と思いつつ、自分への怒りが収まらない。
過去の自分を責めても始まらないのに、つい
ミスが起きるたびに、過去の自分に説教してしまう。「あの時、集中していれば…」「休憩をちゃんととっていれば…」。でも、時間は戻らないし、責めても書類は完成しない。それでも責めずにはいられないのが、この仕事のしんどいところだと思う。特に、ひとり事務所だと、自分しか怒る相手がいない。
忙しさで麻痺してくるチェックの感覚
忙しさがピークになると、頭が回らなくなる。確認の精度が落ちてくるのが自分でもわかる。それでも止まってはいられない。依頼人は待っているし、期日は迫ってくる。こういう時こそ「他人の目」が必要だと痛感する。
目も脳も限界、でも誰にも頼れない
一日中パソコンと書類に向き合っていると、夕方には目も頭も限界だ。それでもまだ終わらない。昔、仲間と一緒に仕事をしていた頃は、お互いに声をかけながら確認し合えた。でも今は、独り。事務員さんが見てくれることもあるけど、最終責任は自分。疲れても、見落としても、最後に名前を載せるのは僕なのだ。
事務員さんのありがたみとプレッシャー
うちの事務員さんは本当に助かっている。黙々と正確にやってくれる。でも、僕が忙しすぎてイライラしている時、その空気を感じ取って距離を置くようになるのがわかる。だからといって、全部投げるわけにもいかないし、投げられるほど簡単な仕事でもない。自分でやったほうが早い、けどそれがまた首を締める。
分業の理想と現実のギャップ
分業で効率化しようと思って、マニュアルを作ったこともある。でも、実際にはそれどころじゃない忙しさで、マニュアルすら更新できないまま時が過ぎた。事務所の理想像と、目の前の現実にはいつもギャップがある。理想を追いかけすぎると自滅するし、現実ばかり見ていると、夢を見失う。
「もう無理かも」と思った夜、誰かがいれば
何もかもが重く感じる夜がある。ミスして、自分を責めて、誰にも頼れなくて、独りでキーボードを打っている夜。そんな時、ふと「誰かに相談できたらな」と思う。でも、その「誰か」がいない。
独身司法書士の孤独なデスク
家に帰っても誰もいない。夕飯はコンビニ。話し相手はスマホのニュースだけ。特別な孤独ではないけど、日々の中でじわじわ効いてくる。そんな状態で仕事の責任だけがのしかかってくると、心が擦り切れていくのがわかる。誰かに「大丈夫？」って言ってもらいたくなる日もある。
相談できる同業者がいない、という壁
昔の知り合いは、別の業種に転職していたり、忙しくて連絡も取れなかったり。同業者同士で情報共有している人もいるけど、正直そういうつながりが苦手で、距離を置いてきた。そのツケが今になって回ってきてる気がする。「誰かに聞けばすぐ解決するのに」って場面で、誰もいない現実。
愚痴をこぼせる場がない辛さ
愚痴をこぼす場所って、本当に大事だと思う。でも、仕事の愚痴ってなかなか外では言えないし、言ったところで誰かが理解してくれるとも限らない。だからこうして、書きながら吐き出している。これがせめてもの救いだ。
それでも、やめなかった理由
こんなにつらいのに、なぜか辞めずに続けている。それはきっと、誰かの人生に少しでも役に立てた実感があるからだと思う。
ミスから学んだことが、心の支えになった
失敗するたびに、やり方を変えたり、チェック項目を増やしたり。そうやって少しずつ、自分なりに工夫してきた。完璧にはなれないけど、過去の自分よりは成長している気がする。そう思えるだけで、少しだけ前を向ける。
「次は絶対に同じミスをしない」と誓う日々
毎回、「これは最後のミスにしよう」と誓っている。それでもまたミスはする。でも、その繰り返しの中で、自分の中に経験という小さな財産が積み上がっていく気がする。だから今日も、夢の中で訂正印を押しながら、現実ではそれを避ける努力をしている。
誰かの人生に触れているという責任
この仕事は、依頼人の人生の一部に確実に触れている。信頼されている責任を、ミスによって裏切りたくはない。だからこそ、夢に出てきてでも自分を戒めるのかもしれない。それはたぶん、まだこの仕事に誇りを持っている証拠でもあるのだ。
