プリンターが詰まるたび心の奥も止まる気がする
プリンターが止まった午前中に見えたもの
朝、事務所のドアを開けて、コーヒーの匂いと書類の山を前に深いため息をついた。予定していた登記書類を印刷しようとした瞬間、プリンターが「ガッ」と鈍い音を立てて止まった。液晶には「紙詰まり」の文字。何もかもがうまくいかない、そんな日がある。誰にも非はないけれど、何かに怒りたくなる午前中。心の奥にしまっていた疲れや苛立ちが、あのエラー音で一気にあふれ出しそうになるのだ。
出勤してすぐのあの沈黙に似た空気
毎朝、誰もいない事務所に一番乗りで入ると、静まり返った空気がそこにある。自分の足音だけが響いて、昨日の書類の重さまでが空気に溶け込んでいるようだ。そんななかでプリンターの紙詰まりが起こると、まるで自分の存在までも詰まってしまったように感じる。朝の静けさは本来落ち着きをもたらすものかもしれないけれど、僕には時として「孤独の音」にしか聞こえない。
紙詰まりの警告音が心に刺さる
プリンターの警告音って、あんなに無機質なのに、どうしてこんなに人を追い詰めるんだろう。単なるエラー音なのに、まるで「お前はダメだ」と告げられているようで、胸が締めつけられる。たかが機械の不調、それがなぜここまで感情に響くのか。答えは簡単だ。僕自身がすでにギリギリまで疲れているから。ちょっとしたトラブルで、ここまで心がかき乱される自分が情けない。
止まるものには理由があるのかもしれない
一枚の紙が引っかかることで止まるプリンター。それと同じように、僕の心にもどこかで引っかかってる何かがあるのかもしれない。毎日の業務、時間に追われる日々、人に頼れない性格。そうした「小さな詰まり」が積み重なって、僕自身の心の機構を止めかけているのだと思う。無理してでも動こうとすると、余計に壊れてしまう。プリンターが教えてくれたのは、そんな単純で大切なことだった。
何度も開けたフタと修正できない案件
プリンターのフタを開ける動作は、もう何度目だろう。手順も覚えているし、詰まりやすい箇所もわかっている。それなのに、いつも同じように詰まる。そして、僕の案件処理も同じだ。分かっているのに、なぜかスムーズにいかない。登記情報の誤記、関係者の連絡不備、修正依頼の山。クライアントには説明できない理由の多さに、気が滅入ってくる。紙と一緒に、自分の自信もどこかで折れてしまいそうになる。
繰り返す操作に浮かぶ昨日のやり直し
昨日も一件、完了間際の登記で修正が入り、関係先に頭を下げて回った。書き直し、再提出、確認…何度繰り返したことだろう。プリンターに手を突っ込んで、紙を引き出すたび、そんな昨日の光景がフラッシュバックする。どうしてこんなにも同じことを繰り返しているのか。進んでいるつもりで、実は足踏みしているんじゃないか。そんな疑問が、また自分の心に詰まりをつくる。
トラブル対応は業務の一部になった
司法書士の仕事は「書類を出すこと」ではなく「トラブルをさばくこと」なんじゃないかと思うことがある。誰かの確認ミス、法務局の解釈違い、予定外の相続人の登場…。完璧に準備していても、絶対に想定外がある。それを一つひとつ片付けていく作業の連続。だからこそ、たかが紙詰まりでも、今の僕には大ごとに感じてしまう。きっともう、心に余裕がないのだろう。
またかと呟く自分が一番疲れてる
プリンターが止まった瞬間、思わず漏れた「またか…」。誰に聞かせるわけでもない小さな独り言。けれど、それを口にした自分が一番疲れてることに気づく。疲れていることにも、疲れている。なんだかもう、全体的に重い。けれど業務は止められない。だから結局、また手を伸ばしてフタを開ける。壊れたわけじゃない。ただ、少し詰まっただけ。それを信じて、今日もまた動かそうとしている。
動かないものと向き合うしかない仕事
司法書士の仕事は、基本的に「動かない相手」と向き合うことが多い。制度、法律、行政機関、古い価値観…どれも一筋縄ではいかないものばかり。その上に人間関係が乗っかってくるのだから、そりゃあ気も滅入る。だけど僕はこの仕事を選んだ。自分で選んで、ここにいる。だから、プリンターの前に立って考える。「また詰まったか」と。それは機械の問題ではなく、自分との対話のきっかけなのかもしれない。
人も機械も簡単には動かない
人も機械も「動かないとき」はある。どうしてもスイッチが入らない日。エラーを起こしてばかりの時期。それは責めるものじゃないとわかっていても、つい焦ってしまう。プリンターに八つ当たりしそうになったとき、ふと自分も誰かにそうされているかもしれないと思った。詰まりや不調は、きっと助けを必要としているサイン。それに気づける人間でいたいと思うけれど、なかなか難しい。
それでも何とかするのが僕の役目
事務所を回しているのは僕だ。事務員も頼りにしてくれているし、依頼者の信頼もある。だからどんなに詰まっても、どんなに動かなくても、「何とかする」のが僕の役目だ。だけど本音を言えば、もう少し楽になりたい。もう少し、誰かに頼りたい。でも、そう言う勇気がなかなか出ないから、また一人でプリンターと向き合う。「今日も、頼むぞ」と小声で呟きながら。
誰にも文句は言えないから黙るだけ
理不尽なミス、終わらないタスク、休めない週末。そんなとき、文句の一つでも言いたくなる。でも、相手はプリンターだったり、制度だったり、人だったりして、結局どこにもぶつけられない。だから黙る。文句は飲み込んで、また手を動かす。そんな日々の積み重ねが、自分を少しずつ疲弊させていく。だけど、そういう弱さも認めながら、今日も仕事をしている。それが今の僕だ。