メールのご確認くださいが来るたびに寿命が縮む気がする

メールのご確認くださいが来るたびに寿命が縮む気がする

そのメールが来た瞬間に手が止まる

朝イチでスマホを開いて、一通目に「ご確認ください」の件名が目に入るだけで、一日が重くなる。まるで「地雷です」と書かれた封筒を手渡されたような気分だ。司法書士の仕事はミスが命取り。だからこそ、この一文に潜む“圧”が恐ろしい。何を確認しろというのか、ちゃんとした内容が書かれているならまだしも、たいていは本文すらあっさりしている。「ご確認ください」だけがポツンとあると、もう頭の中では最悪のシナリオが走り出す。あの案件か?あの書類か?…この段階で仕事のスピードは止まる。まだ何もしてないのに、疲れてしまうのだ。

確認って何のことなのかが怖い

「ご確認ください」という言葉の厄介さは、そこに“意味の空白”があることだ。何を確認すればいいのかが明示されていない。だからこそ、こちら側は勝手に想像を膨らませてしまう。たとえば、依頼人からのメールで「至急ご確認ください」とだけ書かれていたとき、私は一瞬で顔面蒼白になった。前日送った登記の申請ミスか?郵便物の誤送か?心当たりが多すぎて、自分を責め始めてしまう。中身を開けば些細な質問だったりもするのに、なぜかこの一言だけで、心拍数は跳ね上がる。だからこそ、あの八文字が怖いのだ。

たいてい急ぎの仕事かトラブルの火種

これまでの経験上、「ご確認ください」のメールが心温まる内容だった試しがない。急ぎの補正依頼だったり、添付書類の漏れだったり、ひどいときは「なぜこのような処理をしたのですか?」という問い詰め系もある。平和なやりとりなら「先日はありがとうございました」とか「追加でお願いがございます」とか、もっとマイルドな始まり方をするものだ。しかし「ご確認ください」は、いわば“開けてビックリ箱”の合図。自爆装置付きの業務連絡と言ってもいい。確認した後、心が軽くなることは、ほとんどない。

返信の前にまず深呼吸する癖がついた

だから私は、あのメールを開いた瞬間にまず深呼吸をするようになった。心臓のバクバクに耐えながら、深く息を吸い、ゆっくり吐く。まるでマウンドで一球投げる前のピッチャーのように。元野球部の習慣かもしれないが、精神を整えないと、正確な判断ができない。事務員に「なんで固まってるんですか?」と心配されたこともあるが、こっちは一球一球が命取りなんだよ、と言いたくなる。メールの返信一つにも覚悟がいる。それがこの仕事のしんどさでもあり、誰にも見えないところでの戦いでもある。

人に怒られるのが怖い大人になった

この年になって、人から怒られるのが怖くて震えるとは思わなかった。若い頃は多少怒られても「まあしゃあない」と笑い飛ばせた。だけど今は違う。責任が重くなった分、怒られたときの衝撃も大きい。特に依頼人や他士業の先生からのダメ出しは精神にくる。「こんな処理、普通しませんよ」と言われた日には、夜眠れなくなる。自分なりにやってきたつもりでも、相手にはそう見えない。だからこそ「ご確認ください」が怖いのだ。その先には、たいてい“指摘”か“注意”が待っている。

ご確認くださいの裏にある圧

「ご確認ください」には、文面以上の圧力が潜んでいる。直接的ではないが、“あなた、ちゃんとやってます?”という無言のメッセージが込められているように感じる。そんな意図はないのかもしれない。でも、受け取る側の心理はそんなに合理的じゃない。疲れているときほど、被害妄想が膨らむ。まるで“通知表”を出された小学生のように、心の準備が整わないまま指摘される。確認って、そんなに怖いことだったっけ?と、自問自答してしまう。

ミスした記憶がフラッシュバックする

何か指摘されると、過去のミスが芋づる式に蘇ってくる。「あの登記漏れ」「あの添付忘れ」「あの電話の行き違い」…全部、自分が引き起こした小さな地雷だ。時間がたてば忘れたいのに、「ご確認ください」の一言が、その封印を解いてしまう。ああ、また怒られるかもしれない。また信用を失うかもしれない。その繰り返しが、地味に心を削っていく。自分で選んだ仕事だけど、こんなにも自信を持てなくなるとは、思っていなかった。

元野球部でも精神は鍛えきれなかった

よく「スポーツやってたなら打たれ強いでしょう?」なんて言われるが、そんな単純じゃない。確かに野球部時代は、怒鳴られても走らされても平気だった。だけど、仕事での“怒られ”は次元が違う。怒られた先に損害や信頼の失墜がある。部活のミスは練習で取り返せたけど、こっちはそうもいかない。だから、メール一通にすらビビってしまうのだ。あの頃の根性だけでは乗り切れない。そんな現実を、ここ数年で痛感している。

気が休まる時間がどこにもない

事務所にいる間、気が休まる時間が本当に少ない。電話の着信、書類の確認、そして例の「ご確認ください」メール。どれもが地味にストレスだ。昼休みでさえ、頭の片隅に「あのメール、どう返そうか」がよぎる。忙しいだけならまだしも、気を抜けない時間が続くというのは、体にも心にもよくない。かといって、逃げるわけにもいかない。独立した以上、すべて自分の責任だ。誰も代わってはくれない。そう思えば思うほど、気が休まらなくなる。

夜にメールを見ると翌朝が憂うつ

特にたちが悪いのが、夜遅くに届く「ご確認ください」メールだ。たった一通でも、寝る前の安心を奪っていく。内容が分からないまま布団に入っても、脳はぐるぐると回転し続ける。「何かやらかしたか?」「明日電話が来るかも…」と、想像が先走る。結局眠れなくなり、翌朝は重い気持ちで始まる。メールを見なければよかったと後悔するが、そうもいかない。司法書士という仕事には、そういう“夜の恐怖”がつきものなのかもしれない。

事務員さんの一言に救われる日々

それでも何とかやれているのは、事務員さんの存在があるからだ。「先生、いつものメールですね」と言ってくれたり、「大した内容じゃなさそうですよ」と軽く流してくれる。その一言で、肩の力が抜けることがある。自分だけが怯えているんじゃないんだな、と思える瞬間は、何よりの救いだ。こういう共感の力は、本当に大きい。優秀な事務員に恵まれていることだけが、今の私の数少ない自慢であり、支えでもある。

なぜか女性からのメールが一番怖い

不思議なことに、男性からのメールよりも、女性からの「ご確認ください」が怖い。なぜかというと、文面が端的で正確だからだ。「こちらの処理に問題があるようです」「ご確認をお願いします」…それだけで、グサッと刺さる。変に感情が入っていない分、こちらの不安を煽る。別に怒ってるわけじゃないのかもしれない。でも、その冷静さが逆に恐ろしいのだ。

仕事ができる女性ほど文面が無慈悲

特に、優秀で忙しい女性士業や担当者のメールは、簡潔すぎて刺さる。「よろしく」すらない文末。主語もない。主張だけが届く。そのストイックさに、こちらのミスが一層浮かび上がってしまう。まるで“成績表”を突きつけられたような気持ちになる。だからといって、文句も言えない。こちらが悪いときだって、ある。でも、毎度毎度、へこむのは事実だ。世の中、強い女性が多いと実感する日々でもある。

でも少しずつ鈍感になる方法もある

ずっとこんな状態では心がもたない。だから、最近は意識的に“鈍感”になる訓練をしている。メールを一呼吸おいて開く。落ち込む前にまず確認する。内容を事実として処理して、それから感情が動くようにする。完璧にはできないけど、それでも少しずつ、心の持ちようが変わってきた。すぐにビビらない自分になれるかもしれない。それが、今の目標だ。

怒られるのも仕事のうちと思うように

仕事をしていれば、怒られることもある。それを「人格否定」ではなく、「業務の一部」と思うようになった。そう考えられるようになっただけでも、ずいぶん気持ちは楽だ。「また怒られた…」ではなく、「今回はこう改善しよう」と少しだけ前向きになれたら、自分の成長にもつながる。メールの「ご確認ください」にも、そうやって対応できるようになれたら、きっと少しは寿命も延びるかもしれない…たぶん。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。