相談内容より雑談が長い日もあるけれど司法書士は黙って聞くのが仕事です
雑談が始まると終わらない依頼主との日々
地方の小さな司法書士事務所にいると、相談というより「話し相手」を求めて来る方も多いものです。法的な相談より、世間話や昔話のほうが長くなることなんて日常茶飯事。正直、こっちはスケジュールが詰まっていて内心ヒヤヒヤしてるのですが、「この話、今すぐ遮っても大丈夫か?」と毎回迷ってしまう。結局、遮れないのが僕の悪いところなのか、優しさなのか…。そんなふうにして、今日も時計の針はどんどん進んでいきます。
本題にたどり着くまでの長い道のり
とあるご年配の依頼主。毎回決まって昔の商売の話からスタートします。「昔はね、豆腐一丁が…」と始まり、話が温泉旅館→息子の結婚→孫の進学→政治と進む頃には、本題が完全に埋もれている。ようやく「それでね、家の名義のことなんだけど」と切り出されたのは1時間後。僕の手元のメモ帳は空白のまま。でも、途中で遮ると機嫌を損ねて帰られてしまうこともあって、なかなかリスクが高いのです。
それはまるでラジオのパーソナリティ
雑談の聞き役に徹していると、まるで自分が深夜ラジオのパーソナリティになったような気分になります。聞くスキルも鍛えられるし、相槌のバリエーションも豊かになる。相手が気持ちよくしゃべってくれるなら、それも一種のサービスかもしれません。でも、問題は「時間」です。1時間超えのトークを聞きながら、次の予約の方のことが頭をよぎる。焦る心と聞く姿勢のせめぎ合いです。
一文字もメモできない30分間
「で、今日は何のご相談でしたか?」と切り出せたのは雑談開始から40分後。そこから急に話題が切り替わるものだから、頭の中がぐるぐる回ります。「えーっと…登記のことですよね?」と確認するものの、すでに聞いたことを忘れていることもあります。依頼主は満足げでも、こちらは内心焦りと後悔の嵐。たまには「今日は雑談だけにします?」って聞きたくなる日もあります。
話を切る勇気が持てないのはなぜか
どうして僕は、雑談を途中で切れないのか。性格の問題もあるでしょうけど、やはり「人との関係性」を大切にしてしまうからです。地方の事務所は、信頼で回っている部分が大きい。紹介や口コミが主なルートだからこそ、ちょっとした対応が命取りになる。そう思えば、雑談も仕事の一部だと思わざるを得ないのです。
優しさが仇になる瞬間
「先生、やっぱり話しやすいね」と言ってもらえるのは嬉しい。でもそのせいで「なんでも話したくなる」空気を作ってしまっているのも事実。しかも僕は優柔不断なタイプだから、話を切るのが下手。気づいたら1時間、2時間と過ぎている。優しさが仇になるというのは、まさにこのことだと感じます。
過去の「遮って失敗した経験」
以前、一度だけ「では本題に入りましょうか」と途中で切り出したことがありました。すると相手の表情がサッと変わって「忙しいのね、ごめんなさい」と立ち上がって帰ってしまったんです。その後、二度と来ることはありませんでした。あのときの後味の悪さが忘れられず、それ以来、話を切るタイミングを完全に見失っています。
雑談のなかにこそ見える依頼主の本音
一見、無駄に思える雑談の中にも、ふとした瞬間に依頼主の本音が見えることがあります。「こんな話、誰にも言えなくてね」とポロッと出る言葉が、実は今回の相談の核心だったりする。だからこそ、雑談も大切な“前置き”なのだと、何度も思い知らされます。
ふとした一言が一番重要なヒントだった
ある時、「まぁうちの息子も相続には無関心でね…」という一言がきっかけで、大きな問題が浮上したことがありました。最初は家庭内の愚痴程度に思って聞いていたのですが、実は名義変更されていない土地がいくつもあり、しかも親族間でもめていた。相談というより、打ち明け話から問題が判明する。そんなケースは実は少なくないのです。
本題は5秒 雑談は50分
「あ、そういえば登記のこともあって」と言われた瞬間、「あっ、ついに来た!」と内心拍手したくなります。本題に入ったのは1時間後、相談内容は5秒で済んだ。でもそこに至るまでの流れがあるから、依頼主も安心して話せるのだと思います。だからこそ、雑談の50分も無駄ではない…と自分に言い聞かせています。
愚痴の中に見えた登記の核心
「こんな田舎にいても何も良いことない」と話していた依頼主。最初は人生相談かと思っていたけれど、実はその不満の根本は「土地の処分が進まず身動きが取れない」ことでした。登記が滞っていたため売却もできず、心理的な負担になっていたのです。愚痴の奥にこそ、依頼の本質が隠れている。そんな経験、数えきれないほどあります。
事務員さんとの無言のアイコンタクト
長話が続くと、ふと顔を上げた瞬間、事務員さんと目が合います。その目がすべてを物語っている。「もう30分オーバーですよ」「次の人が来てます」…何も言わないけれど、全部伝わってきます。でもそれでも、僕は止められないんです。
「もう30分過ぎてますけど」って目で言われる
たいてい、僕の机の横の時計と、事務員さんの視線が同時にズレてくる瞬間が訪れます。次の来客も控えているのに、話が終わらない。そんな時、事務員さんの視線が鋭くなる。だいたいそのとき僕は、うすら笑いを浮かべながら、なんとか会話の切りどころを探している。でも見つからない。どこで切っても角が立ちそうで。
でも結局俺が悪者になる
「また時間押しましたね」と言われるのは、決まってそのあと。事務員さんは責めてるわけじゃないけど、スケジュール調整の負担は全部あちら持ち。申し訳なさでいっぱいになります。しかも「お話ししやすい先生ですね」と感謝されるのは僕。納得いかないけど、そういう役回りです。
事務員のタイムマネジメントに救われる
正直、僕の時間管理能力はお世辞にも高いとは言えません。そこを支えてくれるのが事務員さんの存在。絶妙なタイミングで声をかけてくれたり、お茶の入れ替えで場を変えてくれたり。地味だけど、それがなければこの事務所は回らない。いつも感謝してます、心の中では。
結局 雑談に付き合うのが司法書士の仕事なのかも
最初は「相談だけしてくれたら助かるのに」と思っていた時期もありました。でも最近では、雑談も含めて“仕事”なのだと受け入れるようになってきました。司法書士って、話を聞く仕事でもあるんです。たぶん。
正解がないからこそ黙って聞く
法律や登記には明確な答えがあります。でも人の悩みや背景には、正解がない。だから、まずは聞く。それが信頼につながり、結果的に仕事にもなる。そう思えば、雑談に時間を割くのも、決して無駄ではない。そういうスタンスで、これからも続けていくんだろうなと思っています。
相談じゃなくて「誰かに聞いてほしい」だけ
ときどき、本当に「ただ話したいだけなんだろうな」と思う方もいます。でも、それを受け止める場があるというのは、地域の司法書士として大切な役割かもしれません。法律の専門家であると同時に、話し相手でもある。なんだか損な役回りな気もしますが、まあ、それが僕の仕事です。
職業的共感力という名の無償サービス
話を聞く、共感する、それだけで人は安心するんですよね。でもそれって、お金にならない部分。なのに大事な部分。そんな“無償サービス”の時間が、今日もまた延々と続いていきます。「ああ、また話し込んじゃったなぁ」と思いながら、笑って次の予約の方をお迎えする毎日です。