誰かの人生に寄り添えるのに自分の未来は見えない

誰かの人生に寄り添えるのに自分の未来は見えない

  1. 朝イチの電話と誰かの人生
    1. 戸籍謄本の向こうにある物語
      1. 依頼者の決断と書類の重み
      2. 人の人生に線を引く仕事
  2. 自分の未来がぼやけて見える理由
    1. 忙しさに紛れて考える暇もない
      1. 人生設計どころか今日の晩飯すら決めてない
      2. 目の前の処理に追われる日々
  3. サトウさんの視線に気づくとき
    1. 冷静な助言が時々刺さる
      1. 「先生、自分のこともちゃんと見てます?」
      2. 言葉に詰まる昼休み
  4. 誰かの幸せを支える裏側で
    1. 手続きが終わったあとの虚無感
      1. 喜ぶ声が嬉しいのに、なぜか寂しい
      2. 見送るだけで立ち止まれない
  5. 他人の人生を整えることと自分の混沌
    1. なぜ自分のことは後回しになるのか
      1. 司法書士という職業の業
      2. 見ないふりをしてきたツケ
  6. ある休日の午後の沈黙
    1. 誰とも話さないまま夜になる
      1. 冷蔵庫の中身と空っぽの心
      2. 「やれやれ、、、」と独りごちる音だけ
  7. 元野球部の仲間との再会
    1. 「お前さ、変わらないな」
      1. 昔話と今のギャップに笑えない
  8. 依頼者の涙と自分の心の距離
    1. 感謝されるたび胸が痛む
      1. “誰かのため”の報酬と引き換えの何か
  9. サトウさんとの静かな会話
    1. 「先生って自分を一番雑に扱ってますよね」
      1. 言われて初めて気づく自分の姿
      2. それでも笑ってごまかしてしまう
  10. 明日もまた誰かの人生に関わる
    1. そして自分の未来は、また棚上げ
      1. 見えないままで続く毎日
      2. でもどこかに希望はあると信じたい

朝イチの電話と誰かの人生

「相続登記、お願いできますか」
朝8時半の電話は、少しだけ震える声だった。昨日もそうだったし、その前の日も。今日も誰かの人生の分岐点に、俺は司法書士として関わることになる。

戸籍謄本の向こうにある物語

依頼者の手にした戸籍には、見知らぬ人生の跡がびっしりと記されている。
離婚、養子縁組、除籍…。数字と文字の羅列のはずなのに、ページをめくるたびに、どこか胸がざわつく。

依頼者の決断と書類の重み

「父とは仲が悪くて…でもこれで整理がつきました」
依頼者の言葉には、決別にも似た解放感がにじんでいた。書類1枚の重みは、当人にとっては10年の葛藤だったりする。

人の人生に線を引く仕事

俺のハンコひとつで、その人生は「整理」される。だが、整理された先のことまでは関与できない。
まるで探偵漫画の脇役のようだ。事件を解決するのは俺ではなく、依頼者自身なのだ。

自分の未来がぼやけて見える理由

誰かの節目には立ち会えるのに、自分の人生のページはずっと白紙のままだ。

忙しさに紛れて考える暇もない

登記申請、郵送対応、決済立会い。
あまりに日常が流れていて、未来なんて考えてる余裕はない。気づけば今年も半分が過ぎていた。

人生設計どころか今日の晩飯すら決めてない

コンビニの冷凍カレーが俺の定番。レンジの「チン」だけが、一日の終わりを告げる。
昭和のアニメならここで「サザエさんの夕飯は豪勢だな」とツッコむところだ。

目の前の処理に追われる日々

ToDoリストは毎日更新されるのに、「自分のことを考える」という項目はどこにもない。

サトウさんの視線に気づくとき

「先生、最近ずっと目が死んでますよ」
ふいにサトウさんが言った。

冷静な助言が時々刺さる

彼女は俺の2倍は効率的に動いているのに、俺よりよく人を見ている。

「先生、自分のこともちゃんと見てます?」

鋭い。ぐうの音も出ない。
「やれやれ、、、」とだけ言って、苦笑いでその場をやりすごすしかなかった。

言葉に詰まる昼休み

俺は黙々とカップそばをすする。サトウさんは無言でおにぎりを差し出してきた。
中は昆布だった。

誰かの幸せを支える裏側で

登記が完了しても、拍手されることはない。だが、依頼者の安堵した顔は、少しだけ俺の救いだ。

手続きが終わったあとの虚無感

達成感というより、脱力。
「この人はこれから幸せになるだろうな」と思う一方で、自分のことになると視界が曇る。

喜ぶ声が嬉しいのに、なぜか寂しい

幸せそうな人を見るたびに、自分がどこか透明になっていく。

見送るだけで立ち止まれない

事件の真相がわかっても、エンディングテーマが流れる前に次の依頼が来る。

他人の人生を整えることと自分の混沌

司法書士という職業は、まるで迷路の出口だけを示す道案内人だ。

なぜ自分のことは後回しになるのか

他人の課題をこなしていると、いつのまにか「自分のこと」は片隅に追いやられる。

司法書士という職業の業

書類と手続きの正確さに命を懸けてきた。でも「心」の扱いには慣れていなかった。

見ないふりをしてきたツケ

いつか考えよう。そう思って、何年経った?

ある休日の午後の沈黙

誰とも話さず、誰にも会わない日曜日。
テレビの音もつけず、ただ部屋の中に自分がいる。

誰とも話さないまま夜になる

「これって孤独死の予行演習かな」
冗談のつもりで言った言葉が、意外にリアルに響いた。

冷蔵庫の中身と空っぽの心

納豆1パック、ヨーグルト、あと期限切れのドレッシング。

「やれやれ、、、」と独りごちる音だけ

リモコンの電源ボタンを押す指先にだけ、力がこもっていた。

元野球部の仲間との再会

OB会に顔を出した。10年ぶりだった。

「お前さ、変わらないな」

元キャッチャーの川原が笑っていた。
だが「変わってない」は、あまり褒め言葉には聞こえなかった。

昔話と今のギャップに笑えない

結婚、子供、マイホーム。みんな次のステージに進んでいる。
俺だけ、まだバッターボックスに立てていない気がした。

依頼者の涙と自分の心の距離

「本当に助かりました。ありがとうございました」
その言葉に何度救われたか。

感謝されるたび胸が痛む

「こちらこそ」と言いながら、どこかに埋まらない穴が空いている。

“誰かのため”の報酬と引き換えの何か

時間、労力、そして未来。気づかないうちに何かを置いてきてしまった。

サトウさんとの静かな会話

「先生、来年のカレンダーもう届いてますよ」
「もう?」と返した俺に、彼女が言った。

「先生って自分を一番雑に扱ってますよね」

あまりに静かな言葉が、ぐさりと刺さった。

言われて初めて気づく自分の姿

自分のスケジュール帳の欄は、ほとんど「他人」のためで埋まっている。

それでも笑ってごまかしてしまう

「はは、まあ、そうかもな」
自分を変える勇気は、まだ持てていなかった。

明日もまた誰かの人生に関わる

登記がある。面談もある。電話も鳴るだろう。

そして自分の未来は、また棚上げ

でもそれでいいのかもしれない。今は。

見えないままで続く毎日

霧の中を歩くような毎日。だが一歩ずつ進んではいる。

でもどこかに希望はあると信じたい

「やれやれ、、、」とため息をついて、今日もまた、判を押す。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓