補正期限と冷えた遺体の記憶

補正期限と冷えた遺体の記憶

朝の一報は冷たい雨とともに

役所からの一本の電話

朝のコーヒーに口をつけた瞬間、役所から電話が鳴った。「補正通知について少しお伺いしたいことがあるんですが…」という出だしに、嫌な予感しかしなかった。天気はどんよりとして、まるで空まで登記にうんざりしているようだった。

補正通知と違和感のある一文

件の通知を見直すと、記載されていた申請日と受付日が微妙にズレていた。しかも添付書類のひとつには、明らかに誰かの手で加筆されたような痕跡があった。事務員のサトウさんは眉一つ動かさずに「これは…ちょっとおかしいですね」と言った。

現地調査という名の異変

空き家に漂う異様な気配

補正対象の物件は郊外にある古い平屋だった。玄関先に雑草が伸び放題で、誰も住んでいない気配が濃厚だった。だが、不自然に開いた窓と生乾きのような臭いが、ただの空き家ではないことを告げていた。

登記情報と一致しない居住者

隣人に話を聞くと、「数日前に知らない男が出入りしていた」との証言。登記簿上の所有者は5年前に死亡しているはずだった。その名義のまま提出された補正申請に、ますます不信感が募っていった。

死体発見と沈黙する申請人

玄関脇に倒れていた男の遺体

サトウさんが「臭いが強いですね」と言った直後、僕は玄関の脇に人影のようなものを見つけた。近づくと、それは男の遺体だった。既に死後硬直が始まり、眼は虚空を見つめていた。警察を呼ぶ手は震えていた。

司法書士の印鑑と死亡推定時刻

現場に残されていた書類の中に、僕の事務所の印鑑が押された委任状があった。だが、問題はその書類の日付。死亡推定時刻よりも後のものだった。「やれやれ、、、また厄介なことに巻き込まれたな」と僕はため息をついた。

補正の中に隠された暗号

訂正された筆跡の謎

補正書の訂正箇所をルーペで見ると、サトウさんが一言、「この筆跡、微妙に違います」と言った。僕は慌てて過去の申請書と照合したが、確かに形が似て非なるものだった。誰かが本人になりすましていた可能性が高い。

申請書が届いた時間の矛盾

申請書が法務局に届いたのは午後二時。しかし遺体の腐敗状況からみて、死後24時間以上が経過していた。つまり、死者の名を使って誰かが手続きを進めていたということになる。これではまるで、名探偵コナンのトリックのようだ。

事務所に戻ってきた推理の時間

サトウさんの冷静な分析

「この補正、タイムスタンプが一致しませんね」とサトウさんはモニターを指差した。彼女の指摘でようやく見えてきた全体像。僕は頭をかきながら「君、キャッツアイの美術品探すよりも早いね」とつぶやいたが、返事はなかった。

元野球部のカンが働く瞬間

ふとした拍子に、書類の並び順が変えられていることに気づいた。これは盗塁の瞬間にキャッチャーの目線が変わるような感覚だ。誰かがわざと資料を入れ替えて、死の時間をぼかそうとしていたのだ。

再訪と一枚の写真

壁に飾られていた過去の集合写真

再び物件を訪れた僕たちは、居間の壁に古びた集合写真を見つけた。そこには死亡した男と、件の補正申請を出した人物が並んで写っていた。二人は学生時代の仲間だったようだ。動機がにわかに現実味を帯びてきた。

「やれやれ、、、」写真の中の不在者

写真にはもう一人、写っているはずの人物が不自然に切り取られていた。サトウさんが「これ、明らかに隠してますね」と言った。やれやれ、、、どうやら一筋縄ではいかない人間関係が裏にあったようだ。

推理の核心と補正期限の罠

死亡推定時刻と登記受付日の交差点

整理してみると、補正期限を使ってアリバイが作られていた。提出された日付と実際の提出時間が微妙にズレており、それによって故人が生きていたように見せかけるトリックが成立していたのだ。

時間を操作した犯人の動機

犯人は死亡した男の元同級生。借金を抱えていた彼は、死亡直後に不動産を売却しようと画策していた。だが所有権の問題で補正が必要になり、偽造に手を染めたというわけだ。サザエさんのノリでは済まされない話だった。

結末と静かな午後

真犯人の出頭と語られた真相

事情を察した警察が動き、犯人はすぐに出頭した。彼の供述によって事件の全容が明らかになり、書類は無効として処理された。補正期限が引き金となり、真実が炙り出された格好だった。

補正が導いた遅すぎた正義

僕たち司法書士にとって、補正とはただの事務作業だ。しかし今回ばかりは、それが死者の声を代弁する鍵となった。無機質な文言の裏に、人の命と過去が隠されていたということを思い知った。

サトウさんの毒舌と僕の独り言

書類と事件、どちらが難解か

「死体より書類の方が気持ち悪いですね」とサトウさんはつぶやいた。冗談とも本気ともつかぬその言葉に、僕は思わず苦笑した。結局、どちらも手間がかかるということだ。

帰り道に見上げた空の青さ

事務所に戻る道すがら、空はいつの間にか晴れていた。やれやれ、、、今日もなんとか無事に終わった。傘を持ってきた意味はなかったが、それがこの仕事だ。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓