評価証明書の提出依頼
始まりは一本の電話だった
朝のコーヒーを入れようとしていたとき、固定電話が鳴った。画面には「非通知」。この時点で嫌な予感しかしなかった。
受話器を取ると、男性の声で「父の相続登記をお願いしたいんですが……評価証明書が必要と言われまして」と言う。
やれやれ、、、またこのパターンか。評価証明書を取りに行くだけでひと苦労なのに、何かあるに違いないと勘が騒いだ。
提出された奇妙な証明書
数字が一致しない
依頼人の青年が市役所でもらってきたという「固定資産評価証明書」を見た瞬間、違和感を覚えた。
登記簿に載っている土地の筆数と証明書の記載数が一致していなかった。どこか一筆、抜けているようだった。
まるでサザエさんの波平の髪の毛が一本足りないような、じわじわとくる違和感だ。
サトウさんの冷ややかな一言
「それ、操作されてませんか?」
私が悩んでいると、隣のデスクのサトウさんが何気なく覗き込み、「それ、操作されてませんか?」と冷たく言い放った。
彼女の言葉に一瞬ムッとしたが、よく見ると証明書の発行日が数年前のものになっていた。
やれやれ、、、古い書類を持ってこられても困るって話だ。
市役所での違和感
再発行の際の沈黙
急いで市役所の資産税課へ向かった。再発行をお願いすると、担当職員が一瞬だけ無言になったのを見逃さなかった。
その後、そそくさと新しい証明書を渡してきたが、先ほどの一瞬の沈黙が気になった。何かを隠しているとしか思えなかった。
その予感は、すぐに的中する。
新しい証明書に記された「消された土地」
見覚えのない地番
新しい証明書には、確かにもう一筆が記載されていた。ただ、それは依頼人の家とは無関係のように見えた。
私は念のため登記簿を取り寄せて確認した。すると、その地番の所有者には依頼人の亡父の名前が。
そして、その土地には仮差押えの登記が。これは単なる相続では終わらない。
借金と土地の隠蔽
財産放棄を防ぐための策略
私は依頼人にすぐ連絡を取り、話を聞いた。すると、亡父が借金を抱えていたことがわかってきた。
おそらく、誰かがその借金が相続人に知られないよう、証明書からその土地を意図的に外したのだ。
だが、それが誰かまではまだ分からない。私は再度、市役所へ向かうことにした。
内部犯の存在
「あの人」が印鑑を押していた
市役所で古い証明書を照会すると、担当者がすり替わっていたことが判明した。
当時の発行担当が、今は別部署に異動していたが、帳簿には彼の印鑑が残っていた。
まるで怪盗キッドが現場にカードを残すような、妙に演出がかったやり口だ。
サトウさんの決定打
封筒の折り目に気づいた
サトウさんが、依頼人の持ってきた封筒を見て、「これ、開封されてからもう一度封をしてますね」と指摘。
糊の質と折り目のズレ、さらには市役所の封印スタンプが少しにじんでいた。
その細かさに舌を巻きながらも、「助かったよ、サトウさん」と思わず呟いた。
真相と告白
封筒をすり替えたのは
依頼人の叔父が、証明書を市役所で受け取った後、内容を確認し、問題の土地が載っているのを見て一計を案じた。
一度封を開け、自分で古い証明書と差し替えたというのだ。借金の存在を知られれば、相続放棄されると恐れたらしい。
「父の遺産は土地だけだったんです……何とか相続してほしくて」と涙ながらに語った。
事件の結末
評価証明書の重み
結果として、依頼人はすべてを知ったうえで相続放棄を選んだ。借金とともに土地も手放す決断だった。
私は申述書の作成を手伝いながら、静かに言った。「評価証明書一枚で、人生変わるもんだな」
やれやれ、、、結局また書類に振り回される日々か。