家屋番号が正しいという証言

家屋番号が正しいという証言

開かない門と番号札

登記済のはずの家に入れない依頼人

ある蒸し暑い昼下がり、事務所に現れた初老の男性は、手に登記事項証明書を握りしめていた。 「確かにこの家なんです。なのに、鍵が合わないんですよ」と彼は額の汗を拭った。 その紙に印字された家屋番号は、法務局発行の正規なものに間違いなかった。

相談者は語る

その家屋番号は絶対に間違っていない

「娘が残してくれた家でしてね、私が相続して、登記も済ませたんです」 頑なに語るその口調に、私はなんとなく身に覚えのある不穏な空気を感じていた。 家屋番号が正しいという証言。それが逆に、何かを隠しているように思えてならなかった。

地番と家屋番号のズレ

地図にない家に住んでいた男

「念のため、現地も確認しましょう」 私はそう言ってサトウさんに地番付きの住宅地図を引っ張り出してもらった。 だが、問題の家屋番号の位置には、空き地マークしか描かれていなかった。

現地調査の始まり

サトウさんの冷静な視線と手帳

その日の午後、私とサトウさんは件の住所へ向かった。 車中、彼女は黙ったまま、すでに調査メモを書き始めていた。 「……郵便ポストの名前、見ておいてください。誰か住んでる可能性もあります」

隣地の所有者が語った違和感

家の並びが何か変だと感じた日

隣人の老婆は、意外な証言を口にした。 「あの家、昔はこっちの家だったのよ。移したの。土台ごと、ゴロッと」 まるでサザエさんの引っ越し回みたいに軽く言うが、それが本当なら一大事だ。

一枚の古い住宅地図

昭和の名残が隠した事実

法務局の古地図室で閲覧した住宅地図。そこには、家屋番号が昭和の時代に変更されていた記録があった。 番号自体は「正しい」。しかし、指し示す場所が、平成の境で微妙にズレていたのだ。 まるで探偵アニメの伏線のように、地図が真実を訴えていた。

元所有者が残した謎のメモ

売買契約と移転登記の間の空白

さらに、サトウさんが市役所で見つけた資料の中に、一枚の付箋が挟まれていた。 『隣地からの苦情、番号変更は未処理、要注意』と書かれていた。 番号変更の登記だけが、抜け落ちていたのだ。

法務局での小さな違和感

書き換えられた備考欄

「やれやれ、、、まったく、備考欄の重要性を誰も教えてくれなかったのかね」 私は呟きながら、更新された直後の登記簿を指差した。 そこには、新旧番号の併記があったが、申請者側のミスで反映が中途半端になっていた。

間違っていないことの危うさ

正しすぎる家屋番号が語る嘘

「つまり、その番号自体は正しい。でも、それが示す場所が違う」 私の言葉に、相談者の肩ががっくりと落ちた。 正しいという証言が、むしろ真実から遠ざけていたのだ。

司法書士の結論

その家は二重に存在していた

実は、相続人が間違えて取得した家は、もう一つの別の建物だった。 旧家屋番号のまま手続きされた登記、それに基づく勘違い。 二つの番号が一つの家を指している状態だった。

解決後の静けさ

サトウさんの小さなため息

「結局、誰も悪気はなかったってことですね」 コーヒーをすするサトウさんの横顔は、どこか冷たくも見えた。 私は小さく伸びをして言った。「まあな、でもやれやれ、、、って感じだよ」

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓