登記簿に潜む競売屋敷の秘密

登記簿に潜む競売屋敷の秘密

奇妙な物件の相談

午前9時。コーヒーの香りが事務所に立ち込める中、古びた封筒を持った中年男性がやってきた。 彼の手に握られていたのは、競売で取得したばかりの不動産の登記簿謄本だった。 「先生、なんだかこの物件、妙なんですよ……夜になると誰かいる気がするんです」そう呟く彼の目はどこか怯えていた。

依頼者が持ち込んだ登記簿謄本

登記簿を開いた瞬間、私はある“空白”に気づいた。所有者欄の一部が不自然に空いている。 「シンドウさん、これ、コンピュータ化以前の記録が抜けてる可能性ありますね」とサトウさん。 だが、それ以上に気になったのは、記載された地番が過去に私が関わった別の案件と一致していたことだった。

競売に出された背景の曖昧さ

事件のきっかけは競売。だが差押登記の記録が見当たらない。 しかも、裁判所の競売情報にもこの物件の詳しい履歴が掲載されていなかった。 「情報の抜け落ちは、ただのミスじゃない。何か、意図的に消された気がするんです」私は鼻の奥がつんと痛んだ。

サトウさんの冷静な分析

塩対応のサトウさんは、いつものように淡々とパソコンを叩いていた。 「この住所、昭和の住宅地図には載ってないですね。代わりに“貸家”とだけ書いてある」 その声に、昔見たサザエさんの“裏のおじさん”のような得体の知れなさを思い出した。

一通の郵便物から始まった違和感

差出人不明の郵便物が物件のポストに届いていたらしい。宛名には「ナガミネ様」とだけ。 登記簿の過去の所有者にその名前はない。しかし、その名は過去に失踪届が出された人物と一致した。 私の背中に冷たい汗が流れた。

過去の登記に残る二重の移転記録

昭和58年に一度売買された記録があり、その翌年にもまた別人へ所有権が移転されていた。 しかも、同じ日付での登記申請。ダブルブッキングだ。 「司法書士が絡んでるな、しかも複数」と私は呟いた。

現地調査の違和感

現場に足を運ぶと、庭先には朽ちたブランコがあった。 だが、そのブランコが微かに揺れているように見えたのは気のせいだろうか。 「やれやれ、、、また妙な案件を引き受けちまった」と、思わず口に出した。

誰も住んでいないはずの家の気配

玄関は閉ざされていたが、中からかすかに足音が聞こえた気がした。 依頼者は確かに「誰もいない」と言ったが、それは本当なのか。 不法占拠か、あるいは、、、。

近隣住民が語る封じられた過去

隣家の老婆はぼそりと口を開いた。「昔ね、あそこに住んでた子が突然消えたんだよ。まるで煙のようにね」 “消えた子ども”の話。まさかとは思ったが、登記簿にある「ナガミネ」の名と符合する。 封じられた過去が、少しずつ浮かび上がってきた。

やれやれと言いたくなる誤記の数々

法務局に出向き、紙の登記簿を閲覧した。そこには手書きの文字が乱雑に並んでいた。 「シンイチロウ」と書かれるべき名前が「シンイイチロウ」となっていたり、番地の数字が丸々間違っていたり。 誤記の連鎖が、事態をさらに混沌とさせていた。

元所有者の名義に潜んだ偽名の痕跡

一見普通の名前。しかし不自然な字体と筆跡。 「これ、同じ人物が複数の名前で登記してますね」とサトウさん。 意図的に仕組まれた偽装。それが長年、法の目をかいくぐっていたということか。

昭和の借地権記載が残る不思議な謄本

登記簿の片隅に、わずかに残された「借地権設定」の記録。 地権者は既に死亡しているが、その権利だけが今も生きている。 その結果、土地と建物の名義が分離され、解体も処分もできなくなっていた。

所有者不明土地の正体

土地の相続人は確定できず、不動産登記簿上は「所有者不明」とされた。 だが、サトウさんは住民票コードの履歴から、ある男性にたどり着いた。 なんと、その人物は失踪していた「ナガミネ」本人の弟だった。

競売の裏で動いた悪意の第三者

すべては、この混乱を利用して利益を得ようとした者の仕業だった。 二重名義、誤記、所有者不明。全てを計算し尽くした司法書士崩れの男。 だが、その名は過去に私が処分請求を出したことのある人物だった。

司法書士としての法的対処

事実を整理し、関係者へ通知を出し、所有権の確認訴訟を準備する。 行政と連携し、登記簿の訂正と所有者の追跡を進める。 やっと、法の力で歪んだ記録に風穴が開いた。

サトウさんの推理が事件を貫く

「これ、もともと地上げ目的で買われた物件なんですよ」とサトウさん。 彼女は過去の新聞記事から、再開発計画とこの物件の関係を掘り当てた。 そこには、失踪した子どもを使った“感情的な仕掛け”まで用意されていた。

登記官の証言が明かす隠された工作

「ええ、当時の申請には違和感がありました。でも押し通されたんです」 元登記官のその一言で、全てのパズルがはまった。 裏には旧知の行政書士と不動産屋の癒着があったのだ。

全ての糸を引いていた意外な人物

実は、依頼者自身が過去に所有者と関係があった。 彼は真相を知りたくてこの競売に参加したのだった。 動機は復讐でも金でもなく、ただ兄の行方を知りたかっただけ。

最後に明かされる動機

“家”にこだわる理由は血縁と記憶にあった。 子どものころ失踪した兄を追い、彼は家を買い戻したのだ。 真実が語られ、ようやく彼の目に安堵の色が浮かんだ。

相続放棄と空き家問題の交差点

この物件には、複数の法的な問題が絡み合っていた。 相続放棄、所有者不明、登記ミス、詐欺的取得。 まるで、登記簿そのものが一つの“迷宮”のようだった。

名義の背後にあった切実な事情

人はなぜ名義に名前を残すのか。 時にそれは、失われた絆の代わりなのかもしれない。 司法書士としての私は、そんな人間の想いに触れた気がした。

事件の結末と書類の山

すべてが終わったあと、私は大量の申請書と照合作業に追われていた。 「先生、次の相談予約、入りました」と無情なサトウさんの声。 やれやれ、、、やっぱり俺の休みは夢のまた夢らしい。

一件落着かと思いきや次の依頼が

次なる依頼は“空き地に現れた井戸の権利関係”というものだった。 またしても地面と紙の話かと、思わず目をそらしたくなる。 だが、そこにこそ人間の物語が眠っているのだ。

やれやれまだまだ俺の休みは遠い

サザエさんが日曜の終わりを告げるように、私は月曜の始まりを受け入れる。 書類の山、疲れた目、そして静かに鳴る電話。 司法書士という仕事には、終わりなどないのかもしれない。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓