はじまりは一通の登記相談から
依頼者の瞳に浮かぶ不安の色
朝一番に事務所のドアが開いた。入ってきたのは、くたびれたスーツを着た中年の女性。手には分厚いファイルと、湿気を含んだような封筒。
「相続の登記をお願いしたいんです」
その声には、何かしらの躊躇が含まれていた。シンドウは、軽く頭をかきながら椅子を勧める。
家族構成と複雑な相関図
長男の死と浮かび上がる後妻の存在
依頼人の話をまとめると、亡くなったのは彼女の兄。生前は事業をしていたが、晩年に再婚し、後妻と暮らしていた。
「後妻さんが、全部欲しいって言うんです」
書類をめくると、家族構成には前妻の子供たち、異母兄弟、そして再婚相手とその連れ子。まるで昼ドラのような構図だった。
戸籍の中に眠るもう一人の相続人
隠されていた認知と養子縁組
「これ、何かおかしいわね」
ファイルを見ていたサトウさんが、ペンである一行をトントンと叩く。そこには認知された子供の名前が。
「こんな人、聞いたことないです」依頼人の顔が曇る。
調査を進めると、その人物は養子縁組されていた別家の人物だった。
謎めいた筆跡と空白の遺言書
筆跡鑑定と司法書士の直感
遺言書が見つかったと、後妻側の弁護士から提出された文書は、コピーであり、日付も署名も曖昧。
「どう見ても、筆跡が本人じゃないですね」サトウさんが即断する。
シンドウは過去に扱った登記書類を引っ張り出し、筆跡を見比べた。「んー、このクセ、、、どうにも怪しい」
協議の席に現れた赤の他人
全員が目を見張った紹介状
協議の席には、まるでルパンの変装ショーのように、全く場違いな若者が現れた。
「私は養子の◯◯です」
紹介状とともに提出された資料は戸籍の裏付けがあり、誰も否定できなかった。空気が凍ったように静まり返る。
不一致の連鎖と崩れていく信頼
感情が交錯する分割協議の場
「そんな人、兄が育てた覚えなんてない!」
「でも、法的には立派な相続人です」
争いは次第に激しさを増し、まるでサザエさんの波平がカツオを怒鳴るような騒ぎになっていった。
シンドウはただ、メモ帳に名前を書き留めていく。
サトウさんの冷静な一言
封筒の中身に隠された決定打
その夜、サトウさんが静かに封筒を差し出した。「これ、実印の押印がズレてます」
中に入っていたのは、後妻が提出した遺言書の原本らしきもの。だが印影は微妙に傾いていた。
「これ、偽造の可能性があるんじゃ?」彼女の一言が、すべてをひっくり返した。
意外な真相と財産の行方
最後に笑ったのは誰だったのか
調査の結果、遺言書は後妻の手による偽造であることが判明。
財産は法定通りに分割されることとなり、養子も含めた全員が法に従う形になった。
「やれやれ、、、なんで俺が家庭崩壊の目撃者にならなきゃならんのだ」
シンドウは苦笑しながら、ファイルを閉じた。
やれやれ一件落着かと思いきや
再び鳴る電話と新たな相談者
事務所に戻ると、電話が鳴っていた。「すみません、兄の遺言について、、、」
「またかよ」と思いつつも受話器を取るシンドウ。
隣でサトウさんが呆れた目をしているのを感じながら、彼は次の修羅場に向けて準備を始めた。
終わらない相続と司法書士の覚悟
シンドウが夜空にぼやく独り言
帰り道、夜空を見上げてひとこと。「遺産ってのは、金じゃなくて人を映す鏡なんだな」
いつものラーメン屋でビールを一杯あおりながら、シンドウは思った。
「明日もきっと何か起きる、、、」
そう、司法書士に休息はない。