朝の静寂と一本の電話
完了通知の違和感
司法書士事務所の一日は、いつもと変わらず始まった。外は秋晴れ、書類の山は相変わらず。
その中に紛れていた、ひときわ目立たない一通の封書。法務局からの登記完了通知だ。
だが、奇妙なことに、シンドウはその登記を依頼された覚えがなかった。
依頼人なき登記
存在しない依頼書
「これ、誰の案件でしたっけ?」シンドウが机の端からサトウに訊ねると、彼女は冷たく返した。
「そもそも、そんな依頼は入ってません」
戸籍謄本も委任状もない。登記識別情報通知書だけが、法務局から確かに届いている。
不在の依頼人
登記簿と照らし合わせる
管轄法務局で登記簿を閲覧してみると、そこには完了した登記の記録がしっかり残っていた。
所有者欄には、聞いたことのない個人名。だが、その住所は──空き家だった。
「やれやれ、、、何か厄介な臭いがするな」と、シンドウは天を仰いだ。
ルパンかキャッツアイか
意図的な登記の痕跡
「まるで登記の上だけに存在する人物ですね」と、サトウが皮肉交じりに言う。
まるで、実在しない所有者の名義にすり替えて逃げる怪盗のようだ。
「泥棒が怪文書を残していく時代から、司法書類を残す時代になったってわけか」
封印された登記申請書
郵送記録の謎
法務局の受付簿には、郵送での申請と記載されていたが、差出人名は虚偽。
封筒には消印もなく、追跡番号も未登録。完全な“幽霊申請”だった。
「サザエさんのエンディング並みに、足跡ひとつ残ってないな」
意図された空白期間
差し押さえ回避のための偽装か
不審な登記が行われた物件には、以前差押登記の動きがあったという。
だが、登記完了のタイミングで差押仮処分は解除されている。
「これは時間稼ぎだったかもな。登記で逃げ道をつくる、ある種のトリックだ」
不動産業者の影
裏で糸を引く者
ある地元の中堅不動産会社が、この物件に関心を持っていた記録が見つかった。
しかも、その担当者が元登記官だったという噂がある。
「どうせならもっと堂々とグラサンでもかけて、悪役ヅラしてくれれば分かりやすいのに」
最後の手がかり
登記識別情報の不一致
法務局から渡された識別情報と、提出されたはずの情報に微妙な違いがあった。
数字のフォント、余白の幅、そして印字位置。誰かが偽造した可能性が浮上した。
「うっかり間違えたってレベルじゃないな、、、悪意を感じるねぇ」
塩対応の名推理
サトウの逆算ロジック
サトウは、提出日の消印と申請日、さらに所有者の氏名から、別名義を割り出した。
「これ、旧姓と新姓を逆にしてるだけですね。戸籍ロンダリングです」
「いやー、よくそんなに冷静でいられるな。やれやれ、、、」
真実は登記の奥に
決着と報告書
違法登記の証拠を整理し、シンドウは法務局に報告書を提出した。
真犯人とおぼしき人物はすでに姿を消していたが、不動産取引は無効となった。
「完了通知の裏に、何があるかは書いてないってことさ」