資格者の沈黙

資格者の沈黙

資格者の沈黙

朝の電話と不機嫌なサトウさん

「シンドウ司法書士事務所です」
サトウさんの低めの声が、事務所に響く。
僕はいつものように、朝のコーヒーを啜りながら、パソコンの前でぼーっとしていた。

相談内容は生前贈与に関するトラブル

電話の相手は、顔見知りの不動産業者だった。
「お宅で扱ってる案件でちょっと面倒な話が出てきたんですわ」
生前贈与を巡る家族間のトラブル。その程度ならいつもの話だが、今回の声のトーンには何か引っかかるものがあった。

なぜか歯切れの悪い依頼人

依頼人の男性は五十代後半。物腰は柔らかいが、どこか上の空だった。
「この土地は母が…いや、叔母が…いや…」
発言が二転三転する。僕は話を整理しながら、サトウさんの視線がチラチラと依頼人を刺しているのを感じていた。

古い登記簿に記された異変

法務局から取得した閉鎖登記簿には、奇妙な記録が残っていた。
二〇〇五年に抹消されたはずの抵当権が、実は完全に抹消されていない。
しかもその手続きに関与していたのが、僕の知る限り「資格者」だった人物だ。

遺言の存在と消えた書類の謎

依頼人が語った「叔母の遺言」は、登記手続きには出てこない。
どこかで意図的に伏せられたか、あるいは偽造されたのか。
僕はかつて見たサザエさんの回で、波平が実印を押すシーンを思い出していた。あれぐらい単純な話ならいいのに。

司法書士資格者というキーワード

閉鎖簿の隅に残る登録番号から、当時関与していた司法書士の名前が浮かび上がった。
「…この人、シンドウ先生の同期じゃありませんか?」
サトウさんが放ったその一言で、僕は久しぶりに胃が痛くなった。

資格者の告白と封じた過去

連絡を取った元資格者は、すでに登録を抹消していた。
「十年前のことだ…俺がやった。でも、誰にも言わないでくれ」
土地の名義を変えるために、当時の依頼者とグルになり、嘘の登記原因証明を作ったと告白した。

やれやれ、、、これは地雷を踏んだか

僕は思わず呟いた。
「やれやれ、、、これ、完全に地雷じゃないか」
過去の虚偽登記が今になって現れるなんて、探偵漫画なら確実に第一章のラストだ。

サトウさんの推理が導いた一通の記録

「この贈与契約書、コピーですけど、印鑑の押し方が違います」
サトウさんは虫眼鏡で検証しながら、印影のズレを指摘した。
さすが、シャーロックホームズではなく、ホームセンターの防犯用品で鍛えた観察眼だ。

過去のミスか罪か

元資格者は「ミスだった」と繰り返したが、記録は彼の行為が「意図的」だったことを示していた。
不正登記によって不動産の相続を操作する。悪意がなければ出来ない芸当だ。
そしてそれが、依頼人の今の立場にも関わっていた。

誰が嘘をついていたのか

依頼人もまた、真実を語っていなかった。
「叔母の遺言」とされた文書は、日付が死後になっていたのだ。
つまり彼は、不正を知ったうえで僕たちに依頼してきた。

最後の証言が語った真実

すべてのピースが揃ったところで、僕たちは真相を依頼人に突きつけた。
「あなたは、真実を知っていた上で、この贈与登記を正当化しようとした」
男はうなだれ、静かに「…すみませんでした」とだけ呟いた。

登記の裏に隠された動機

遺産の大半を得るため、依頼人は元司法書士に頼み、叔母の死後に偽造した贈与契約書を登記の根拠にした。
まるでルパン三世が狙った財宝のように、用意周到だった。
ただ、どこかでボロが出る。それが登記制度の妙なところだ。

資格者が背負った十年

元資格者はその件のあとすぐ廃業し、ひっそりと地方に引きこもっていた。
「正直、怖くて眠れない夜もあった」
登記の訂正と報告書の提出を促すと、彼は深々と頭を下げた。

事件の終焉とサトウさんの皮肉

事務所に戻ったあと、サトウさんはため息をつきながら言った。
「司法書士も、たまには犯罪に関わるんですね」
「たまには」って言い方が妙にリアルで、僕はまた胃薬を飲み直す羽目になった。

そして僕は今日も反省文を書く羽目に

報告書を書きながら、僕は自分の未熟さを再認識していた。
過去の同業者の罪を見逃さず、依頼人の嘘も見破る。それが本当の意味での司法書士なのかもしれない。
でもまあ、やれやれ、、、またサトウさんに原稿の赤入れされるんだろうな。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓