密室の遺産と最後の合意
謎の招待状と司法書士への依頼
俺の事務所に届いたのは、一通の妙に重たい封筒だった。差出人は「加納家代表」とだけ書かれている。添えられていた手紙には、急逝した加納老人の遺産分割に立ち会ってほしいとのこと。日時と場所だけが記されていた。
古びた屋敷と四人の相続人
指定されたのは、山奥にある和洋折衷の古びた屋敷だった。着いたときには、既に四人の相続人が集まっていた。長男、次男、長女、そして甥。見るからに仲が悪そうな顔ぶれだった。どこかサザエさんの正月スペシャルの親戚集合回を思い出す。
施錠された応接間と消えた遺言書
手続きのために集められた応接間は、分厚いドアで完全に閉ざされていた。中に入って全員が着席したあと、屋敷の管理人がドアを施錠した。ところが、取り出されるはずの遺言書が、どこにもない。金庫の中も封筒も空っぽだった。
やれやれ、、、俺が何をしたというんだ
「これは司法書士の仕事じゃないぞ」と心の中で呟く。俺は相続人でもないし、探偵でもない。ただの書類屋だ。けれども、なぜか全員の視線が俺に向けられている。「やれやれ、、、俺が何をしたというんだ」
サトウさんの冷静な観察眼
同行していたサトウさんが、静かにメモを取りながら全員の動向を見つめていた。「鍵を閉めたのは管理人ですが、封筒に触れたのは誰でしたか?」と一言。鋭い。俺なんか、ひたすら出された煎餅を口に入れてただけだというのに。
遺産分割協議書に隠された仕掛け
一通のコピーされた遺産分割協議書が机に置かれていた。そこには四人の署名欄と押印欄があったが、一箇所だけ不自然に余白が広い。「これ、何かが剥がされた跡ですね」とサトウさんが指摘する。まるでコナンのスケボーみたいに、話が一気に加速した。
相続人の一人が見せた不自然な行動
「トイレに」と言って席を立った次男が、妙に長く戻ってこなかった。サトウさんがあとをつけると、屋敷の隅の物置で何やら燃やしていたという。「まさか、、、」俺は口をつぐんだ。いや、正確には煎餅を喉につまらせて咳き込んだ。
サザエさんのエンディングのような違和感
一見、場は和やかに見えた。笑顔すら見せる相続人たち。しかし、全員が心のどこかで何かを隠している。エンディング曲が流れてくるようなシーンでも、画面の隅に「続く」と書かれているような妙な不安があった。
印鑑の押印位置と空欄の意味
押印の位置が微妙にズレていた。通常より左に寄っている。これは誰かが後で文言を加える余白を意図的に残した証拠だ。そう、「後で加える予定だった文言」が、消えた遺言と一致する可能性がある。
封筒の折り目と一枚足りないページ
封筒を逆光にかざすと、そこには三つ折りの跡があるにもかかわらず、二枚しか紙が入っていなかった。誰かが一枚だけ抜き取った。その証拠は、残された折り目の幅が示していた。
屋敷の見取り図に隠された密室のトリック
管理人から借りた屋敷の見取り図に、小さな点線が書かれていた。まるでルパン三世の予告状のように。「この応接間、実は裏からも出入りできるんじゃないですか?」とサトウさん。なるほど、それが密室トリックの答えだった。
鍵の番号が導いた真犯人
施錠に使った鍵の番号は「41」。何の意味もないと思われたが、「よい(良い)」と読めば、「良い鍵=替えの鍵がある」という暗示だ。管理人が二本鍵を持っていたことが発覚し、そこから一人の相続人と共謀していたことが明るみに出る。
真実の告白と崩れる相続関係
共犯を認めた管理人は、「加納さんは長女に全財産を残すつもりだった。それを他の相続人が知ってしまい…」と語った。長女は泣き崩れ、次男はうなだれた。相続というより、家族そのものが崩れていた。
遺言の行方と司法書士の役割
消えた遺言の写しが、なんと俺のバッグの中から出てきた。どうやら加納老人がこっそり入れていたようだ。「お前が最も信用できる」とでも言いたかったのか。いや、そんなわけはない。俺のバッグはいつも開きっぱなしだ。
密室の扉が静かに開かれるとき
鍵が開けられ、応接間のドアが静かに開いた。密室というより、誰も真実を見ようとしなかっただけなのかもしれない。書類は再作成され、遺産は再び均等に分けられることになった。
残された者たちと新しい契約書
俺は新しい遺産分割協議書に目を通しながら、ふと外の景色を見た。もうすぐ梅雨が明けるだろう。サトウさんが一言、「これ、手数料は加算しますよ?」とつぶやく。やれやれ、、、また書類の山だ。