登記簿が映した疑惑の影

登記簿が映した疑惑の影

登記簿が映した疑惑の影

朝の来客と書類の違和感

朝9時。まだコーヒーの香りが事務所に残るなか、男が一人、どこか落ち着きのない様子で訪ねてきた。 「亡くなった兄の家の名義、変えたいんですけど…」そう言って差し出されたのは、妙に新しい登記事項証明書だった。 紙の色が白すぎる。それだけで、私は妙な引っかかりを覚えた。

登記簿に残された空白

受け取った書類を見ながら、私は思わず小さく首を傾げた。 通常あるはずの所有者変更の履歴が、すっぽりと抜けていたのだ。 一見、整って見えるが、あまりにも整いすぎている。不自然な美しさは、どこかに嘘が隠れている証だ。

消えた家族名義の謎

依頼者の話によれば、兄は10年前に失踪し、死亡宣告を受けたのは去年だという。 だが、登記簿上は5年前にすでに別の名義に変わっている。 それが「家族の誰も知らない」というのだ。やれやれ、、、また面倒な話に巻き込まれたようだ。

サトウさんの冷静な指摘

私の顔色を察したのか、サトウさんが一言。「これ、筆跡が不自然ですね」 彼女はルーペを片手に、印鑑証明の端のわずかなかすれを指摘した。 まるでルパン三世の峰不二子のように、クールで的確だ。私がアホな銭形警部に思えてくる。

裁判記録と住所の微妙なズレ

念のため、家裁の記録も取り寄せてみる。死亡宣告の住所と、登記された住所が数メートルズレていた。 本来あり得ないはずの住所違いに、私はざわりと背中が冷たくなる。 これは意図的な操作。しかも、司法書士の知識がなければできない巧妙さだ。

固定資産税の納付通知から見えるもの

市役所から取得した納税証明書には、ある年を境に所有者が変更されていた痕跡がある。 その変更には法的根拠がない。むしろ、それが“あったこと”にされているのだ。 つまり、文書の一部が改ざんされている可能性が高い。

昔の登記簿の筆跡と今の違和感

過去の閉鎖登記簿を調べると、字のクセが微妙に違っていた。 特に「山」という字の右払い。前の登記官は癖で跳ねていたが、今回のは直線的だった。 本物なら、そんな違いは起こらない。

法務局の窓口での思わぬ証言

意を決して、私は法務局に出向いた。あの忌々しいガラス越しの窓口に向かう。 担当者がぽろりと漏らした。「ああ、この登記、当時けっこう騒ぎになったんですよ」 騒ぎ?それが公式記録に残っていないのはなぜだ。

書類を巡る兄弟の確執

再度、依頼者に会うと、その目はどこか泳いでいた。 「実は…兄と家のことで揉めてたんです。何も残さず出ていったから…」 口調が変わった。最初は“悲しい弟”を演じていたのだ。芝居がかっていた。

判明する偽造の手口

依頼者の提出した印鑑証明と、登記に使われたものが微妙に違っていた。 それはスキャンの“ノイズ”の入り方でわかる。まるでコピーした漫画のページのように、線が潰れている。 プロの目をごまかせても、サトウさんの目はごまかせない。

隠されていた第三者の影

真の名義人は、依頼者の妻の兄。つまり、妻の家族が不正に絡んでいた。 当時の借金問題を清算するため、偽装登記が行われたらしい。 誰もが“家のこと”に無関心を装っていた理由がここでつながる。

登記の正当性を巡る攻防

相続の取消申請と同時に、偽造の証拠を提出する。 だが相手方は「善意の第三者」と主張し、登記を維持しようとする。 裁判所は書類の信憑性を問題視し、審理は一気にこちらに傾いた。

鍵を握る隣人の証言

「あのとき、夜中に何人も出入りしてたよ」 隣人の証言で、“その家に誰も住んでいないはずの期間”に人の出入りがあったとわかった。 これで“実体のない所有権移転”の証明が可能になる。

登記官との緊迫したやりとり

私は久々に電話口で声を荒げた。「あなた、これが正当な登記だと本気で思ってます?」 登記官は沈黙し、「…再調査します」と呟いた。 公務員のその言葉の重みは、静かな勝利の兆しだった。

サトウさんの一喝と逆転の論理

「もう、遠慮せず言いますけど、これ犯罪ですから」 サトウさんが書類をバンと机に置いた。彼女の声に、依頼者はびくりと肩を揺らした。 彼女の冷静な正論は、裁判所より効く時がある。

真実を明かす最後の一通の通知

事件の決着は、税務署から届いた一通の通知だった。 「相続税申告の虚偽記載」──登記の背後にある脱税が露見したのだ。 すべてが崩れたとき、私はため息とともに呟いた。「やれやれ、、、結局、税務署が一番怖いんだよな」

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓