閲覧できない真実

閲覧できない真実

朝の一件の違和感

朝の事務所に、やけに丁寧な身なりの男が現れた。持ってきたのは、登記情報の不備に関する相談。書類に不備はなく、むしろ完璧すぎた。

妙に過剰な敬語と、ピクリとも動かない表情。それが、僕の警戒心をほんの少しだけ刺激した。だがこの時はまだ、ただの面倒な相談だと思っていた。

コーヒーを口に含んで、ため息をつく。事件の匂いなんて、月曜の朝には似合わない。

依頼人の顔が引きつっていた理由

男は土地の登記情報が閲覧できなかったと言う。地番も正確で、入力ミスもなかった。なのに、検索結果は「該当なし」。

「そんなことありますかね?」と男は笑ったが、その目は笑っていなかった。明らかに何かを隠していた。

僕は画面に表示されたエラーコードをメモしながら、サトウさんに目配せを送った。

何もかもが普通すぎる資料

提出された資料には、全て必要な情報が整っていた。逆に整いすぎていた。あまりにも手慣れた感じがする。

「この筆跡、誰かが意図的に寄せてるかもですね」とサトウさんがポツリとつぶやく。さすがだ。

この時点で、ただの登記閲覧ミスではないと確信した。

登記情報提供サービスの謎

登記情報提供サービスの端末で、該当の土地を再検索した。何度やっても「存在しない」と出る。だが法務局の地図では、しっかりとそこに物件が存在していた。

「デジモンの世界みたいですね」と僕が冗談を飛ばしても、サトウさんは冷ややかだった。

リアルとデータのズレ。これは単なるバグではなさそうだった。

なぜその情報は閲覧できなかったのか

調べれば調べるほど、地番の登録自体は法務局には存在していた。しかし、それが公開情報に反映されていない。

つまり、誰かが「閲覧不可」に設定した可能性が高いということだ。そんな操作は通常できない。

不自然な“空白”は、誰かが作った“闇”だった。

検索された記録は残っているのに

ログを追跡すると、依頼人と同じ地番が二日前に検索されていた記録があった。誰が検索したのかは記録されていない。

そして、その直後から閲覧不能になっている。これは偶然だろうか?

僕は首をひねりながら、薄い違和感が背筋を這い上がるのを感じた。

サトウさんの冷静な分析

サトウさんは、僕よりも先に「これは内部の操作ですね」と断言した。やれやれ、、、また面倒な話になってきた。

どうやら誰かが職権で一時的に閲覧制限をかけたらしい。それを正当化するためには、何かしらの“手続き”が必要だ。

問題は、その手続きが“なかった”ことだ。

端末操作ログと時間軸の矛盾

操作ログを解析すると、深夜にログイン履歴があった。職員のIDを使って、システムにアクセスされていたのだ。

「まるでキャッツアイみたいですね」と僕が言うと、「いや、せめてルパン三世にしてください」とサトウさん。

不正アクセスか、または職員の“協力者”がいたか。いずれにせよ、表に出てこない動きがある。

旧システムに潜む闇

さらに調べていくと、旧システムの管理者権限がまだ有効であることが判明した。正式には廃止されたはずの管理パネル。

そこからなら、特定の登記情報を“非公開”にすることができるらしい。証拠は残りにくい。

まるで、泥棒が使い古した鍵で忍び込むようなやり方だった。

所有者の名義が変わっていた

登記簿の写しを現地で取得すると、名義が数ヶ月前に変わっていた。それも、依頼人がまったく知らない人物へと。

しかも、その新所有者の名前は、ある地方議員と同姓同名だった。偶然にしては出来過ぎている。

僕の中で、疑念が確信に変わった。

依頼人が知らぬ間の変更

依頼人は何の書類にもサインしていないと主張する。だが、登記上は印鑑証明も委任状も提出済みだ。

「偽造の可能性は?」と問うと、サトウさんは「高いですね」と即答した。

ここからが本番だ。法務局の出番でもある。

見落とされていた添付ファイル

紙ベースで提出された委任状のコピーに、違和感のある余白があった。スキャン時に切り取られたような痕跡だ。

「これ、ワープロ書式のテンプレですね」とサトウさんが指摘する。そこに押された印影も、やや浮いていた。

つまり、すべては“作られた”ものだった。

かすれた筆跡と消えた委任状

決定的証拠となるはずの原本は、提出後すぐに破棄されていた。保存義務期間内にも関わらず。

破棄理由は「汚損による閲覧不能」。これが事実なら、相当な杜撰さか、意図的な隠蔽だ。

本物の委任状は、最初から存在しなかったのかもしれない。

偽造の痕跡と司法書士印の不在

よく見ると、司法書士の職印が通常のサイズとわずかに異なる。偽造印だったのだ。

関与していた司法書士の名前を聞いて、僕は思わず固まった。以前、軽い処分歴があった人物だ。

これは意図的な“偽装登記”だったと断言できる。

登記所内部の人間の関与

登記官の一人に過剰な反応を示した人物がいた。質問をしただけで、顔色が変わり声が震えていた。

「誰も見てないですよ」と僕が言うと、「誰かが見てるからこそ怖いんですよ」と返ってきた。

登記という制度の根幹を揺るがす闇が、静かに広がっていた。

職員の過剰な反応

その人物は、深夜アクセスのIDを持っていた数少ない一人だった。端末の使用履歴も不自然だった。

「誰かに脅されてた?」と聞くと、俯いたまま何も答えなかった。

真実は語られなくても、もう十分だった。

過去にもあった同様の事件

実は同じような“閲覧不能”トラブルが過去にも起きていた。だが、いずれも調査中に“解決済み”として処理されていた。

誰かが、裏で糸を引いていた可能性が高い。まるで組織ぐるみのように。

名探偵コナンの黒の組織が霞んで見えるレベルだ。

やれやれ、、、残業確定の展開

このままじゃ終われない。だが、もう夕方だ。役所も閉まる。

「サトウさん、明日も付き合ってね」と言ったら、「今日は寝かせませんよ、シンドウさん」と返された。

やれやれ、、、これは完全に残業コースだ。

シンドウのうっかりが意外な突破口に

実は、提出資料の一枚を僕が逆さにコピーしていた。それが偶然、スキャン処理の不備を証明する決定的証拠になった。

「こういうミス、初めて役に立ちましたね」とサトウさんがニヤリと笑った。

結果オーライ。人生、何が功を奏すかわからない。

解決の鍵はサザエさんのオープニング

依頼人の話を聞いていると、毎週決まった時間に何かが届いていたと言う。それが、なぜかサザエさんのオープニングに重なる。

つまり、送信者は“毎週日曜の夕方”に動いていたのだ。

その時間帯、某議員のスケジュールは毎週“空白”になっていた。

犯人の告白と真相

ついに証拠が揃い、関係者は観念した。土地をめぐる相続問題と政治家の圧力が背後にあった。

すべては一件の“所有者変更”を隠すための操作だった。善意の依頼人が巻き込まれただけだった。

胸のつかえが取れたように、依頼人は深く頭を下げた。

依頼人の涙と登記の修正申請

土地は無事に元の持ち主へ戻された。修正登記の手続きは、時間はかかったが完了した。

依頼人は最後に一言だけ、「ありがとうございます」と言って、何度も頭を下げた。

僕はただ、「やれやれ、、、」と小さくつぶやいた。これが、僕の仕事なのだ。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓