登記簿が暴いた失踪の真実

登記簿が暴いた失踪の真実

序章 雨の朝に届いた依頼

机に置かれた茶封筒

朝から雨が降っていた。じめっとした空気の中、事務所のドアが開き、一人の男が黙って封筒を置いて帰っていった。無言の訪問者に僕はただ「え?」としか言えなかった。 封筒の中には、古びた登記事項証明書と一枚のメモ。そこには「兄を探してほしい」とだけ書かれていた。なんの前触れもない依頼に、少しだけ背筋が寒くなった。 僕はそのまま机に肘をつき、ため息をひとつ。サザエさんの波平のように、何もかもが突然すぎる。やれやれ、、、また変な依頼だ。

依頼人は沈黙の男

翌日、再びやってきたその男は、こちらの問いかけにほとんど答えなかった。唯一わかったのは、兄の名義の土地が突然第三者のものになっていたということ。 「登記が勝手に変えられていた」と彼は言ったが、そんなことは基本的には起きない。登記簿は正直だ。だからこそ僕たち司法書士の出番がある。 サトウさんがすっと席を立ち、書類を確認しにいった。無言の空気の中で、僕はコーヒーをすすった。薄味のコーヒーが、妙に苦かった。

行方不明の兄と名義変更

登記簿に残された名前

登記簿を見れば、確かに依頼人の兄の名前は昨年で抹消されていた。所有権が移転した理由は「贈与」。相手はまったく見覚えのない名義だった。 「贈与?勝手に?」サトウさんが画面を覗き込みながら眉をひそめる。どうやら、本人確認情報も添付されていたようだが、不自然な点が多い。 この兄、実は数年前から行方不明で、家族とも音信不通だったらしい。失踪者の登記情報に誰かが手を加えた可能性がある。俄然、面白くなってきた。

消えた兄の転居先

住民票は既に除票扱いとなっており、正確な転居先はわからなかった。唯一手がかりになったのは、三年前に届出された住所地。 その住所は、県境にある過疎地域の山奥。地元の人の話によると、昔ながらの空き家が点在する集落らしい。「ああ、探偵漫画ならきっと、そこで死体が見つかるパターンですね」とサトウさん。 「やめてくれよ、、、」と苦笑しながら、僕は古い地図を広げた。現地調査は面倒だ。でも、このままじゃ終われない。

サトウさんの冷静な推理

「これ 詐欺かもしれませんね」

「これ、贈与契約書の筆跡と印影、全部怪しいです」とサトウさんは冷静に言った。登記に必要な資料は揃っているが、どれも何かズレている。 「この契約日付、兄が最後に目撃された日よりも後ですよ」と続けて指摘された時、僕は思わず椅子から立ち上がった。つまり、存在しない人間が契約したということになる。 となれば、これはただの名義変更ではない。故意に仕組まれた「登記の偽装」だ。まるで怪盗キッドのトリックを暴くような気分になってきた。

登記原因に潜む矛盾

「そもそもこの登記原因、贈与というより譲渡ですよね」と彼女は指差した。確かに登記原因証明情報の書式も、法務局が公開しているものと微妙に異なる。 その違和感を辿っていくと、提出された司法書士の職印が、存在しない登録番号だったことが判明した。つまり、この登記そのものが「架空の司法書士」の名でなされたもの。 やれやれ、、、司法書士が偽造される時代か。もう何でもアリだな。僕は頭をかきながら、これは自分の出番だとようやく思い直した。

記録の中の嘘と真実

古い登記事項証明書の違和感

さらに古い登記簿を取り寄せると、そこには確かに兄の自署での所有権取得が記録されていた。相続による取得だ。それも、両親の死亡直後。 しかし、そこから何か月も登記変更がなかったのも不自然だった。人は財産を得ると、必ず何か動きを見せる。特に兄のような人物ならなおさらだ。 サトウさんは静かに言った。「もしかして、この兄さん、、、最初から姿を消すつもりだったんじゃないですか?」

法務局の端末で見つけた不一致

法務局の端末で調べたとき、提出された印鑑証明書の番号が架空であることに気づいた。存在しない番号。それは一発でアウトだ。 誰かが、架空の司法書士をでっちあげ、存在しない印鑑証明書を添付して登記を実行した。そして、それを通してしまった窓口の責任は、、、まあ、それはさておき。 登記簿は正直だが、それを操作しようとする手は後を絶たない。真実は紙の裏に隠れている。

村のはずれの空き家にて

鍵のかかった物置と新聞紙

現地に向かうと、ボロボロの空き家が一軒。鍵は錆びていて、何年も開けられた形跡がなかった。ドアを開けると、湿った木の匂いが鼻を突いた。 物置の奥に、新聞紙に包まれた書類があった。そこには兄の名刺と、手書きの遺言書が。その内容に、僕は言葉を失った。 兄は、すべてを放棄し、この場所で死ぬ覚悟をしていた。そして、誰にも見つけられないよう細工を施したのだった。

やれやれ 僕の出番か

「これを法的にどう扱うか、考えるのはあんたの役目ですよ」とサトウさん。はいはい、わかってますよ。やれやれ、、、僕の仕事は書類の迷路を抜けることだ。 僕は手袋をして、書類一式を封筒に収めた。これがきっと、兄の残した最後のメッセージだ。誰かがそれを読み解かなければいけない。 静かな山奥で、小さな真実が見つかった。それだけでも、少し救われた気がした。

決定的証拠と犯人の告白

知られざる家族の確執

依頼人は兄に対して強い憎しみを抱いていた。兄は両親の死後、家を独占し、他の兄弟を遠ざけていたという。だが、実は違った。 兄は病に侵され、家族に迷惑をかけたくなかったのだ。だから一人で山奥にこもり、名義を譲ることで解決したつもりだった。 しかし、それを悪用した第三者がいた。兄の知人を名乗る男が、こっそり印鑑を預かり、偽の登記を仕組んだのだった。

登記を悪用した巧妙な隠蔽工作

その男は、過去にも類似の手口で土地を奪っていた。サザエさんで言えば、ノリスケが突然サラリーマンをやめて詐欺師になったようなものだ。 でも今回は違った。司法書士がついている。僕たちの仕事は、紙の裏に隠れた真実を引っ張り出すことだ。嘘が通じると思うなよ、と僕は心の中で呟いた。 こうして、偽の司法書士の存在も含めて、事件は無事に解決へ向かった。

事件の終わりと依頼人の涙

兄はなぜ姿を消したのか

兄は自分がいなくなれば、すべてが丸く収まると思っていた。だが、現実は違った。残された人々は混乱し、土地は奪われかけた。 人は、ただ消えるだけでは何も解決しない。誰かが片をつけなければならない。だから、僕たち司法書士がいる。 依頼人は、兄の遺言書を読んで、しばらく黙っていた。やがて一筋の涙を流し、静かに頭を下げた。

書類の中に刻まれた真実

事件が終わって、事務所に戻った。机の上には、処理済みの登記簿と修正された謄本。すべてが元に戻ったわけじゃない。でも、少しだけ前に進めた気がする。 「今日の昼飯、カップ麺でいいですよね」とサトウさん。相変わらず塩対応だが、それが一番落ち着く。 やれやれ、、、これで少しは静かな午後が過ごせるかな、と思った次の瞬間、またドアが軋んだ音を立てて開いた。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓