登記簿が語る見えない遺産

登記簿が語る見えない遺産

朝の電話と知らない名前

「もしもし、そちらで相続登記をお願いしたいんですが」
受話器の向こうの声は、どこかおどおどしていた。名前を尋ねると、まったく聞き覚えのない姓が返ってきた。
だが、電話口の男は、こちらの事務所のことを妙に詳しく知っていた。

見慣れない相続登記の依頼

依頼内容は、地方にある一軒家の相続登記。だが、所有者欄にある名前には違和感があった。
まるで昔の漫画『怪盗ルパン』に出てきたような、偽名めいた響きだった。
「そんな名前、本当に存在するんですかね?」とつぶやくと、サトウさんが無言でメモを寄こした。「実在します」とだけ書かれていた。

登記簿の中の奇妙な所有者

不動産の登記事項証明書を取り寄せてみると、確かにその名義人の記載があった。
だが、最終の所有権移転が昭和の終わり頃で止まっている。しかも、遺産分割協議書もなく、相続人の情報も乏しい。
まるで、何者かが登記簿に“所有者らしき人物”を仕込んでいたようだった。

依頼人の過剰な警戒心

電話口の男は、「できれば早くお願いしたい」と繰り返した。
その割に、委任状や印鑑証明を送るのを渋ってくる。何かを隠している。
そんな直感が、元野球部の経験からくる“勘”にビシビシと響いた。

サトウさんの冷静な観察

「この人、嘘ついてますね」
サトウさんは淡々とした口調で言った。「言ってることと書類が一致してません。相続人じゃない可能性が高いです」
やれやれ、、、俺が気づく前に、また見抜かれてしまった。

戸籍を追うと浮かび上がる空白

戸籍謄本を取り寄せた結果、名義人と依頼人の間に法的なつながりはなかった。
むしろ依頼人は、名義人の遠縁ですらなかった。完全な他人。
これでようやく、なぜ彼が正体を隠そうとしていたかが見えてきた。

見えてきた二重の相続手続

さらに調査を進めると、過去に同じ不動産で“もう一つの相続登記”が申請されていた形跡が出てきた。
しかもその登記は、途中で却下されていた。理由は「利害関係不明」。
つまり、この土地は“奪われかけていた”ということだ。

遺言書の不自然な日付

依頼人が送ってきた遺言書のコピーには、妙な点があった。日付が遺言者の死亡日の後になっている。
おいおい、これは『サザエさん』の中でもカツオくんがやらかすレベルのミスだろ。
そんな突っ込みを心で入れながら、手元の資料に赤ペンで大きく「偽造の疑い」と書き込んだ。

司法書士から見た違和感の正体

細かい文言、印鑑の位置、封の跡まで見れば、法務局の人間でなくとも気づく偽造の兆し。
これは完全に、事件だ。登記を使った詐欺未遂。
なんてこった。普通の水曜日の午前中に、こんなことに巻き込まれるとは。

もう一つの登記簿と幻の家

名義の地番をもとに現地を調べてみると、古びた空き家が存在していた。
だが、周囲の誰も持ち主を知らない。郵便受けも朽ち果てており、人の気配はない。
それでも、誰かがこの土地を手に入れようと暗躍していたのは間違いない。

法務局が教えてくれた過去の名義

古い登記簿を閲覧していると、昭和30年代に登記された「公正証書遺言」の記載を見つけた。
それが、依頼人の主張とまったく異なる相続内容になっていた。
つまり依頼人は、この過去の内容を知らずに偽造に走ったというわけだ。

田舎に眠る手つかずの家屋

不動産自体の評価は低くても、地元にとっては歴史ある土地だった。
登記簿のなかに記録されていた、消えかけた相続の真実。
それを掘り起こすのが、俺の役目らしい。誰に褒められるわけでもないけどな。

依頼人の正体と狙い

警察との連携で、依頼人の正体は判明した。過去にも複数の不動産を“乗っ取ろうとした”前科があった。
司法書士をうまく使い、合法を装って手続きを進める――その常套手段。
だが今回は、サザエさんのエンディングのごとく「結局みんなが見ていた」というオチになった。

偽名と本名の間にある動機

彼の本名には、どこかで見た記憶があった。過去に法務局でトラブルを起こした人物だったのだ。
つまり俺は、何年も前から“再登場する”悪役と再戦していたのかもしれない。
やれやれ、、、俺は探偵でも刑事でもないんだけどな。

最後に司法書士がやるべきこと

登記簿の修正、是正登記の申請、関係者への通知。
地味で地道で、誰にも気づかれないけれど、それが俺の仕事だ。
今回もまた、誰かの遺産が不当に奪われるのを防げた。ギリギリだったけど。

嘘を記録から消すための登記申請

登記簿は正直だ。誰が何をしようと、最終的には真実を突きつけてくる。
だからこそ、嘘が記録される前に止めなきゃならない。
そういうときだけ、俺はちょっとだけヒーロー気取りになる。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓