登記簿は知っていた
机の上に置かれた一枚の登記事項証明書。その名義に見覚えがない。けれど、確かに依頼人は「自分の土地です」と言った。
うっかりか、それとも嘘か。まあ、どっちにしても面倒なことには変わらない。
やれやれ、、、また厄介な案件だ。俺は額の汗をぬぐい、書類の束をもう一度手に取った。
朝の一報と消えた名義
「この土地、どうして私の名前じゃないんでしょうか?」
依頼人の女性は不安げに声を震わせた。登記簿には、別の名前が記されていた。
原因を探るには、相当古い資料を洗う必要がありそうだった。
依頼人の曖昧な記憶
「たしか、祖父の代から…」
そう言いながらも、依頼人の話はどこか断片的で、肝心な点が抜けている。
その上、過去の名義変更がなされた痕跡も登記簿からは読み取れなかった。
古い記録の中の違和感
俺は法務局の倉庫にこもり、古い閉架書庫から地番簿や旧台帳を引っ張り出した。
その中で、昭和四十八年の名義変更に妙な空白を見つけた。
相続でも売買でもないのに、名義が変わっているのだ。
昭和の登記と令和の現実
「昔は結構いい加減だったんですよ」
窓口の古株職員が、諦め顔で呟いた。俺も思わず苦笑い。
この昭和的ゆるさが、いまの俺の仕事を増やしているというわけか。
境界線のずれと二つの地番
隣の土地との境界も怪しい。測量図を見ると、実地とは明らかにずれている。
しかも、似たような地番が二つ並んで存在していた。
まるでミステリー漫画の伏線みたいな展開だった。
サトウさんの冷静な分析
「この筆界、地積測量図と違いますね」
サトウさんが淡々と指摘する。俺はその視線を追い、図面を見比べた。
確かに、一本の線がこの事件の鍵を握っているようだった。
書類の端に残されたヒント
サトウさんが古い測量図のコピーを指さした。「これ、赤鉛筆の線ですね」
昔の登記担当者が手書きでメモした線だった。その線が、消えた名義のルートを示していた。
まさか、そんなものが決め手になるとは思いもよらなかった。
一枚の測量図が語る真実
線の先には、仮登記の文字。しかも、抹消されていない。
つまり、仮登記のまま放置された土地が、今回の依頼人の土地だったのだ。
「名義人が違うのは当然ですね」サトウさんの声は、どこまでも冷静だった。
現地調査と不可解な隣人
現場へ行ってみると、隣の家から犬が飛び出してきた。吠え声がけたたましい。
すると中から出てきたのは、いかにも偏屈そうな老人だった。
「ここはウチの土地だ、何しに来た」と言い張る彼の姿に、嫌な予感がよぎった。
犬と鉢合わせた午前十時
俺はスーツのズボンに犬の足跡をつけられ、苦い顔になった。
その間もサトウさんは冷静に地積測量図を広げ、境界杭を探していた。
杭はあった。が、それは地図上とは少しだけずれていた。
隣地所有者の消えた戸籍
隣の地主の戸籍を追うと、十年前に亡くなっていた。
今の名義は仮登記のままで、正式な相続登記はされていない。
つまり、今の所有者は「名義上いない」状態。だからこそ、隣人は言いたい放題だったのだ。
行政書士の失踪と仮登記の謎
過去の仮登記申請を担当した行政書士に連絡を取ろうとしたが、事務所はもぬけの殻。
電話も通じない。ネットで検索すると、「不祥事で行政書士会除名」の記録が出てきた。
まったく、漫画でもここまで露骨にはしないだろう。
空き家に残されたレターパック
失踪した行政書士の旧事務所は空き家になっていた。
そのポストには、未配達のレターパックが詰まっていた。
中には、今回の土地の測量依頼書の控えがあった。肝心の部分だけ、破れて読めなかった。
土地を巡る家族の断絶
旧所有者の家族は絶縁状態だった。
相続放棄した者もいれば、連絡先すら不明な者もいた。
そして唯一連絡の取れた相続人が、名義変更を面倒がって放置していたという。
やれやれから始まる逆転劇
俺は管轄の法務局に仮登記権利者の所在不明による抹消申請を進めた。
数週間後、無事に登記が完了。依頼人の名義で正式に土地は登記された。
やれやれ、、、こんな手間のかかる仕事でも、最後は肩の荷が下りる。
サトウさんの毒舌と最後の鍵
「最初から仮登記を確認してれば、もっと早く終わりましたよ」
うん、それは言わない約束だ。俺はただ、こくりとうなずく。
その後ろ姿に、サザエさんの波平が「ああ言えばこう言う」と嘆く姿が浮かんだ。
誰が真の名義人かを暴く瞬間
登記簿が語るのは、法と人の歴史だ。
今回も、地味で分かりにくい事件ではあったが、確かに「真実」はそこにあった。
だから俺は、今日もまた紙の海に潜っていく。文句を言いながらも、少し誇らしく。