司法書士は恋愛対象にならないと気づいた日

司法書士は恋愛対象にならないと気づいた日

仕事は増えるのに出会いは減る一方

この仕事を始めてから、気づけば「出会い」という言葉からずいぶん遠ざかっていた。20代の頃はそれなりに合コンや紹介もあったが、独立して事務所を構えてからというもの、日々の業務に追われて気がつけば夜。事務員と話す以外、人と会話すらしない日もある。地方という土地柄、そもそも人口が少なく、飲みに行けば顔見知りばかり。出会いの絶対数が少ないのに加えて、こっちも心の余裕がなくなってきている。恋愛は「心の空き容量」が必要だと、最近つくづく思う。

気づけば事務所と法務局の往復だけ

毎朝8時には事務所に出て、メールを確認し、登記関係の書類を整理する。そのあと法務局や銀行、場合によっては依頼者の家まで足を運ぶこともある。帰ってくるのは夜の7時過ぎで、そこからまた書類のチェックや明日の準備。土日も「急ぎでお願いします」と言われれば動かざるを得ない。こんな生活じゃ、人と出会う時間も気力も生まれない。野球部だった学生時代は、放課後に恋の話でもしていたのに、いまや「押印忘れないように」と自分に言い聞かせる毎日だ。

恋愛する時間を作るという発想がなかった

ある日、友人の結婚式に出席した。高校時代の仲間たちはみな家族を持ち、子どもまでいる。笑顔の写真がスマホに溢れていた。そんな中、自分の写真フォルダはといえば、登記済証や契約書のスキャン画像ばかり。そこでようやく気づいた。「あれ、俺って恋愛の時間を作るという発想すらなかったのか」と。恋がしたくないわけじゃない。ただ、毎日を回すことだけで精一杯だったのだ。

自分に言い訳していたことに気づくのはいつも遅い

忙しいから仕方ない。モテないのは地方だから。そうやって、自分で自分に言い訳を重ねていた。でも本当は、少し時間ができたら何をするかといえば、寝るか、テレビを見るか。結局、恋愛を後回しにしてきたのは自分自身だった。何かを変えるには行動が必要。でも、それに気づくのはたいてい、誰かが遠くに行ったあとだ。

肩書きがあるとモテると思っていた

「司法書士です」って言えば、少しくらいは「しっかりしてそう」とか「頼りになりそう」とか思ってもらえるんじゃないか。そんな期待を抱いていた時期もある。でも現実は甘くなかった。司法書士の知名度はお世辞にも高いとは言えず、恋愛市場ではまったくと言っていいほど評価されない。そもそも「何をしてる人か分からない」とすら言われる始末だった。

司法書士って響きが頼りがいあると勘違いしてた

「それって弁護士とは違うの?」と、ほぼ毎回聞かれる。確かに、司法書士と弁護士の違いなんて、一般の人にとってはどうでもいいのかもしれない。だけどこっちは、独立開業してひとりで事務所を回している。小さいながらも経営者だ。地道な信頼の積み重ねで成り立ってる仕事だ。そんな気持ちとは裏腹に、恋愛の場ではなぜか“無職とほぼ同じ扱い”を受ける感覚になる。

現実はそれって何する人の連発

マッチングアプリで「司法書士」と書いてみたことがある。でも反応は微妙。プロフィールを読まれても、質問すら来ない。思い切って自分から「登記や相続の手続きなんかをやってます」と送っても、「難しそうですね」で会話終了。こっちは“ちゃんとした仕事”だと思ってるけど、向こうからすれば“地味で分かりづらい職業”だったのだ。

知名度の低さに婚活で何度も撃沈

婚活パーティーにも何度か参加したが、結果はさんざんだった。医者や公務員は安定感でモテる。エンジニアやデザイナーは未来感でモテる。司法書士は…「???」という顔をされて終了。ある女性には「ふーん、堅そうですね」と言われ、それっきり話も盛り上がらず。地道で堅実な仕事をしているつもりなのに、恋愛では真逆の評価になるのが切なかった。

仕事が忙しいは言い訳になるのか

「仕事が忙しいから恋愛どころじゃない」そう思っていた。でも最近、それすらもただの逃げじゃないかと疑い始めた。たしかに毎日は慌ただしい。でも、じゃあその中で「ちょっと誰かと話す時間」は本当に作れないのか。仕事を理由に、誰かと関わる可能性を最初から捨てていたのではないか。そう気づいた時、自分自身にがっかりした。

日曜のデートより火曜の書類締切が優先だった

かつて一度だけ、デートの約束が日曜に入った。でも、前の週に急ぎの依頼が入り、土曜も出勤。結局、日曜も「一件だけ見ておきたい登記がある」と言ってキャンセルした。その後、彼女からのLINEは来なくなった。あのとき、自分は何を守って何を失ったのか。思い返すたび、手にした登記より、手放した可能性の方が大きかった気がする。

それでも誰かに理解されたいと思ってしまう

矛盾してるかもしれないけど、誰かに「忙しいね、大変だね」と言ってもらいたい気持ちはずっとある。強がって「一人が楽」と言いながらも、誰かに気持ちを分かってほしいと願ってしまう。人に弱音を吐けない性格のせいか、そういう想いはいつも胸の内に閉じ込めてきた。だけど最近、それが一番の“非モテ要因”じゃないかと気づき始めた。

結局、自分で孤独を作っていたのかもしれない

気づけば「どうせモテないし」と言って、自分から人を遠ざけていた。会話も深まらないうちに「この人とは合わない」と判断していたのは、自分自身だった。人のせいにしてたけど、本当は全部、自分で決めて、自分で閉ざしていたんだと思う。恋愛って、努力もタイミングも必要だ。それを投げ出しておいて、寂しいなんて、勝手すぎたのかもしれない。

それでも前を向こうとしている

この年齢になって、ようやく素直に自分の寂しさを認められるようになった。司法書士という職業は、地味で目立たないかもしれない。でも、誰かの役に立てる仕事だ。そんな自分を少しでも誇りに思えるようになった今、恋愛も含めて、人との関わりにもう一度向き合ってみたい。モテなくても、誰か一人にちゃんと伝われば、それでいいと思えるようになってきた。

独身司法書士でも誰かに響く人生はあると信じたい

たとえモテなくても、恋愛がうまくいかなくても、自分の人生を否定したくはない。失敗も愚痴も、全部含めて自分だから。独身司法書士、地方在住、モテない、でも人の役に立ちたいという気持ちは本物だ。そんな人生を生きている人間も、どこかにいる。これを読んでくれた誰かが、少しでも「あ、自分だけじゃないんだ」と思ってくれたら、それだけで報われる。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。