ポストに刺さったあの一枚が全てを狂わせた日
封筒一枚で心拍数が跳ね上がる日常
司法書士をしていると、たかが一枚の封筒で一日の流れがすべて狂うことがある。特に法務局からの通知。封筒の端がポストからチラッと見えているだけで、胸がギュッと締め付けられるような感覚になる。何か忘れていたか、期限を超えていないか。そんなことが頭を駆け巡る。そしてその日の午後、実際にその一枚の通知が、仕事の流れも予定も、そして精神的安定も、全部ぐちゃぐちゃにしてしまった。配達遅れ?原因はともかく、結果としてその影響はあまりに大きかった。
週明けに届いたはずのものがなぜ今日
本来なら先週末には届いていなければおかしい通知。法務局は確かに発送していると言うが、手元に届いたのは月曜の午後。おかしいと思いながら封を開けると、「◯日までに補正提出をお願いします」の文字が目に飛び込んできた。…いや、それ、明日なんですが?慌てて事務員と確認を重ね、メールも履歴も調べ直したが、発送日には問題なし。つまり、単純に郵便の配達が遅れた。それだけのこと。しかし、その「だけのこと」が、ここでは命取りになりかねない。
地域差なのか単なる配達ミスか
地方だから配達が遅れる、という話はよく聞く。ただそれがたまたま重要な通知と重なると、こちらの責任かのように突きつけられる空気になるのが辛い。東京の司法書士仲間に聞くと「うちは翌日には届くよ」と笑われるが、こっちは下手すれば2日、3日かかることもある。しかも、それを見越して動いていても、たった1通の例外が命取りになる。結局、クライアントには説明して頭を下げるしかない。理不尽だが、それが現実だ。
予定が狂っただけでなく信用にも影響が出る
この通知遅れが引き起こしたのは、単なるスケジュールの狂いではない。依頼人との信頼関係にもヒビが入る。あれだけ「安心して任せてください」と言っていた手前、言い訳がましいことは言えない。でも実際にはこちらの責任ではない。それでも「なぜ気づけなかったのか」「なぜ余裕を持って進めなかったのか」と、自問自答が始まる。誰かに当たりたくなる。でも、当たる相手なんていない。事務員だって頑張ってる。
通知が一週間遅れると何が起こるか
ただの通知が一週間遅れると、すべての段取りが崩れる。補正の準備も、クライアントへの説明も、法務局との再調整も、全てが綱渡りになる。今まで積み重ねてきた予定表が一瞬で白紙になるあの瞬間、胸がギュッと締め付けられるような恐怖を感じる。しかもそれが頻発するわけではないから、毎回「今回は大丈夫だろう」と思ってしまう。そして、その油断が命取りになる。
登記期日目前の恐怖
登記申請には期限がある。ギリギリまで詰めて準備しているときに通知が遅れてくると、もう物理的に間に合わない可能性すら出てくる。たとえ間に合ったとしても、その過程で無理をして、次の案件にしわ寄せがいく。元野球部だった頃の「根性で乗り切れ」なんて言葉が頭をよぎるが、根性で補正は書けないし、印鑑証明も取れない。スライディングでは何も片付かない。
事務員と顔を見合わせるしかない瞬間
その日の午後、私と事務員はポストの前で顔を見合わせた。彼女も「えっ、今届いたんですか?」と困惑していた。責められるようなことはしていない。それでも二人で無言のまま事務所に戻り、PCの前に座る。私がモテない理由なんて考える余裕もない。ただ、ひたすらに書類とにらめっこ。こんな時、もう一人スタッフがいればと何度思ったことか。けれど、地方の小さな事務所にはそれも難しい。
一人事務所のリスクが浮き彫りになる瞬間
人手が足りないということは、すべての業務が自分か、事務員の二人で完結するということだ。そこに一つでもイレギュラーが生じると、連鎖的に崩れていく。分業できないから、ミスのリカバリーも時間がかかる。そして最終的には、疲弊していく自分に苛立ち、落ち込む。誰にも頼れず、誰にも言えず。たまに愚痴る相手もいないまま夜が来る。
確認の遅れが命取りになる構造
配達遅延のような外的要因に加えて、自分の確認漏れがあると、それは完全に自責になる。そこが一番怖いところ。日々の忙しさの中で、書類の山に埋もれてしまうこともある。でも言い訳はできない。「ああ、見落としてた」で済む話ではない。だからこそ、確認、再確認、三重確認を怠れない。でも、そういうときに限って、確認のための時間すら取れない。
ダブルチェックの余裕すらない現実
事務員と二人体制というのは、思ったよりも脆い。忙しい日にはお互いが別の仕事にかかりきりで、ダブルチェックが形骸化する。ミスを防ぐ体制が最初から整っていない。大きな事務所なら分担や見直しができるが、ここではそうはいかない。なんとか回しているだけ。いつか破綻するのではという不安を抱えながら毎日を過ごしている。
予備日なんて幻想だと思い知る
予定表には「余裕をもって」と書いていても、現実にはギリギリになって動かざるを得ないことばかり。急な依頼、突発的な相談、そして配達の遅れ。どれも予測不可能。それに対応しているうちに、当初の“余裕日”なんてどこかへ消えてしまう。結局、帳尻を合わせるのは自分の時間と体力。週末も休めず、頭は常に何かに追われている。
同業者との情報交換が救いになる
こうした日々の中で、本当に救いになるのは、同業者の存在だ。SNSでもいいし、地元の会合でもいい。同じような経験をした話を聞くだけで、少し気が楽になる。自分だけじゃないという安心感。愚痴を言い合える相手がいるというのは、ありがたいことだ。司法書士は孤独な仕事だが、孤立してはいけないと痛感している。