履歴書には書けない寂しさが僕を動かしている

履歴書には書けない寂しさが僕を動かしている

履歴書に書けない感情は誰に届くのか

資格や職歴、スキルに実績。履歴書に書けることはたくさんある。けれど、そこには書けない「寂しさ」や「虚しさ」は、どうすれば伝えられるのだろう。僕は司法書士として日々登記や相続の仕事をしているが、人と深く関わるようで、実際には淡々と書類と向き合う時間が大半だ。そんな中で感じる孤独感は、履歴書のどこにも書けない。でも、この寂しさこそが、僕を突き動かしているのかもしれないと最近は思うようになった。

資格や実績だけじゃ語れないもの

司法書士の仕事は、表面上は「堅実で信頼される職業」と見られがちだ。確かに試験に合格するまでは大変だったし、開業してからも実務に慣れるのに時間がかかった。でも、どれだけ実績を積んでも、自分が誰かに必要とされている実感を持てることは少ない。相談者とのやり取りも基本的には短く、深い関係にはならない。人と接しているようで、実際には“処理”しているだけという感覚が拭えない。資格や数字では表せない感情が、この仕事には確かにあるのだ。

司法書士という肩書きが隠す孤独

「先生」と呼ばれることが増えたけれど、その呼び方が距離を感じさせることもある。僕はもともと、人との距離を詰めるのが得意ではない。仕事上の敬語や礼儀には慣れているが、プライベートなつながりはどんどん薄れていった。肩書きがあることで安心する一方で、誰にも本音を言えない状況に自分を追い込んでいる気もする。ふと立ち止まったとき、「誰かとちゃんと向き合ったのはいつだろう」と考える。肩書きの陰で膨らむ寂しさは、誰にも見えないだけに深くなるばかりだ。

事務所には僕と事務員だけの静けさがある

うちの事務所には、僕と事務員の二人しかいない。広くもなく、にぎやかでもなく、ただ静かに時間が流れていく。事務員さんはよくやってくれていて、雑談を交わすこともある。でもその会話は、いつも必要最小限の範囲にとどまる。沈黙に包まれる時間の方が圧倒的に長い。音もなく進む日々の中で、ふと「誰かともっと話したいな」と思うけれど、それを言葉にするのも気恥ずかしい。孤独に慣れてしまった自分が、少し怖くなる瞬間がある。

仕事はあるが会話はない

忙しさに助けられることもある。黙々と書類を作成し、登記を完了させていく作業には一定の達成感がある。だけど、電話が鳴らない時間が長く続くと、急に不安になる。誰とも話していない日が何日も続くと、「このままでいいのか」と胸がざわつく。たとえ会話が業務的な内容でも、人と声を交わすこと自体がどれほど自分を救っているかを実感する。仕事があるだけでありがたい。でも、本当に欲しいのは「仕事」じゃなくて、「つながり」なんだと気づく瞬間がある。

昼休みの沈黙に救われることもある

昼ご飯は毎日、事務所の小さな休憩スペースで食べる。コンビニのおにぎりか、たまにスーパーの総菜。事務員さんもそれぞれ静かに自分の時間を過ごしている。会話はない。でも、その静けさが逆に心地いい日もある。無理に話さなくてもいい空間があることに救われる自分もいる。きっと僕は、人が恋しいのに、人といるのが苦手なのだろう。この矛盾が、いつまでも心を不安定にさせる。でもそんな自分を、もう受け入れようと思い始めている。

モテないという属性に慣れすぎた結果

正直、女性にモテた記憶はない。いや、もしかしたら気づかなかっただけかもしれないが、少なくともここ10年は自分から恋をすることもなくなった。仕事があるからいいや、と言い訳して過ごしてきたけれど、気づけばそれが日常になっていた。誰かと寄り添って生きることを、自然と諦めていたのかもしれない。モテないという属性をネタにすることで、自分を守っていたのだと思う。だけど、たまにその殻が苦しくなる夜がある。

恋愛も家庭も置いてきた現実

昔は「30歳くらいで結婚してるだろうな」となんとなく思っていた。でも気づけば45歳。独身で、親にも「そろそろどうなの」と言われる年齢だ。結婚や恋愛は、忙しさを理由に後回しにしていた。でも本当は、うまくいく自信がなかっただけだ。誰かと一緒にいるための努力を避けてきた。だから今、寂しさを感じても仕方がない。これは自業自得なのだ。それでも、「誰かと一緒に晩ごはんを食べたい」と思う瞬間がある。自分にそんな願望が残っていることが、少しだけ救いだ。

たまに夢に出てくる元カノの話

数年前に別れた彼女が、たまに夢に出てくる。駅で手を振るシーンとか、何気ない会話をしている夢とか。夢の中の僕は楽しそうに笑っている。目が覚めたあと、なぜか涙が出る日もある。その夢を見た日は、いつもより余計に人恋しくなる。「あのとき、もう少し素直になれていれば」と思っても、もう戻れない。元カノの存在が、いまの僕にとって「人とつながること」の象徴になっているのかもしれない。

そういえば告白されたこともあった

ずっと忘れていたけれど、大学のときに告白されたことがあった。今思えば、あれが最初で最後だった気がする。自信がなかった僕は、照れ隠しに冗談で返してしまった。その子の表情を、いまだに覚えている。あのとき、もっと素直に受け止めていれば、少しは違う人生だったのかもしれない。でも、そういう「もしも」に縋ってばかりいても仕方がない。ただ、寂しさのルーツには、あの一言の後悔がある気がする。

元野球部のノリはもう通用しない

高校まで野球一筋だった僕は、努力と根性でなんとかなると思っていた。実際、受験勉強もその精神で乗り切った。でも社会に出ると、気合いではどうにもならないことばかりだ。無理を重ねれば体を壊すし、理不尽に怒鳴れば信頼を失う。野球部のノリは、事務所では通用しない。それどころか、むしろ邪魔になることさえある。でも、その経験があったから今の自分がある。そう思いたい自分も、まだどこかにいる。

根性論では書類は片付かない

深夜まで事務所に残って、「今日中に終わらせるぞ」と自分に気合いを入れる。でも、集中力も体力も限界がある。根性だけで乗り切る時代は終わった。むしろ、しっかり休んでコンディションを整える方が効率的だとようやく気づいた。野球部で鍛えた精神力は今でも財産だけど、それだけでは乗り越えられない。大人になってからの努力には、「自分を追い込まないこと」も含まれているのだと思う。

一球入魂より一件処理

「一球入魂」は野球部時代の座右の銘だった。でも今は「一件一件、確実に処理する」が信条だ。書類にミスがあれば依頼者に迷惑がかかるし、登記が遅れれば不信感につながる。派手さはないが、地道な仕事が信頼を生む。この感覚は、野球で言えば地味な守備練習に近い。打席に立って一発ホームランを狙うより、ゴロをしっかり捌く方が今の僕には合っている。そう思えるようになったことが、少しだけ誇らしい。

履歴書の趣味欄に書けなかった本音

履歴書の趣味欄って、地味に難しい。映画鑑賞や読書と書く人が多いけれど、僕は書ける趣味がなかった。正直に「晩酌」と書くわけにもいかず、適当に「散歩」とか書いていた。だけど、本当は“誰かと心を通わせたい”という思いが、ずっと趣味だったのかもしれない。それは履歴書には書けない。誰にも見せない、本音の趣味だ。

趣味はないけど日々は埋まる

趣味がなくても、やることは山ほどある。仕事に追われて、気づけば1日が終わっている。週末も溜まった書類の確認や、今後の案件の準備で潰れることが多い。遊びに行く余裕もないし、誘われることもない。でも、孤独に慣れすぎた自分にとって、それが心地よい時間でもある。人付き合いが減った分、自分と向き合う時間が増えた。そんな日々も、悪くないのかもしれない。

一人の晩酌が語ること

夜、一人で焼酎をちびちび飲む時間が、僕の一番正直な時間だ。テレビもスマホも見ず、ただ静かにその日を振り返る。誰にも話せない愚痴や、本当は伝えたい感謝の気持ちを、心の中でつぶやく。そんな時間が、僕の「履歴書には書けない寂しさ」を慰めてくれる。誰かと飲む酒もいいけれど、一人の晩酌も悪くない。寂しさは、案外悪者じゃないのかもしれない。

それでもこの仕事を続けている理由

ここまで書いておいてなんだけど、それでも僕はこの仕事が嫌いじゃない。人と深く関わることは少ないけれど、誰かの人生の節目に関われる責任のある仕事だ。登記完了の報告をしたときの「ありがとう」は、何度聞いても嬉しい。寂しさと共に働きながら、それでも誰かの役に立てることが、僕を救っているのだと思う。

誰かの役に立てる瞬間がある

例えば、相続で悩んでいる高齢の相談者が、僕の説明を聞いて「これで安心しました」と笑ってくれる瞬間。誰かの不安を少しでも軽くできることは、何よりの報酬だ。派手な言葉も演出もいらない。誠実に向き合えば、それだけで人は安心する。それがわかったからこそ、続けていける。寂しさに負けそうになる夜も、そんな記憶が背中を押してくれる。

登記完了のメールが届くたびに

「完了しました」の文言を打つたびに、小さな達成感がある。地味だけど、確かな仕事をしたという実感。それが積み重なることで、僕の存在価値を少しずつ補強してくれている。たとえ履歴書に書けなくても、この満足感は本物だ。だから、明日もまた一つ、書類を仕上げる。寂しさも抱えたまま。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓