封筒が届いた日
事務所に舞い込んだ一通の手紙
地方都市の片隅にある、僕の小さな司法書士事務所に、その封筒は届いた。差出人の名はなく、宛名も「司法書士シンドウ様」とだけ書かれていた。やけに古びた茶封筒は、湿気を含んで少し歪んでいた。
依頼人の不在と残された書類
封を切ると、中には古い委任状と、もう一通の手紙が入っていた。しかし、それを持ち込んだ人物は、すでにこの世にいないらしい。依頼の内容もはっきりせず、誰が、何を望んでいたのか、さっぱりわからない。
謎の依頼内容
委任状かそれとも遺言か
委任状の日付は十年前。しかも内容は不自然で、土地の名義変更を依頼するものだったが、土地の特定も曖昧だった。これは、いわゆる「書かせた感」のある文面。筆跡もぎこちない。
サトウさんの違和感
サトウさんは、何も言わずに手紙を読み、眉をひそめた。「委任状より、この手紙のほうが気になりますね」と一言。僕にはただの私信にしか見えなかったが、彼女の言うことはだいたい当たる。やれやれ、、、嫌な予感がする。
過去の登記と食い違う事実
古い地目変更の記録
登記簿を確認すると、その土地はすでに宅地として登記されており、現在の所有者も別人だった。さらに過去の地目は畑。その変更の時期と委任状の日付が、なぜか合致している。
隠された共有名義の落とし穴
さらに奥へ調べると、その土地はかつて兄妹二人の共有名義だったことが判明した。しかし現在の登記では、兄の単独名義。妹の持ち分が、いつの間にか消えている。おいおい、これはどういうことだ?
手紙が意味するもの
筆跡と日付の不自然さ
封筒に入っていた手紙は、妹から兄へのものだったようだ。「土地のことは兄さんに任せるよ」と書かれているが、まるで書かされているような文調。筆跡も委任状と一致していた。
委任ではなく告白だった内容
手紙の裏には、小さな走り書きがあった。「本当は渡したくなかった。私は、まだこの家を愛している」。それは法的な書類ではなく、妹の感情のこもった告白だったのだ。
真相への手がかり
サザエさんの家系図からのヒント
「これ、波平さんとカツオの関係に似てませんか?」サトウさんが唐突に言った。意味が分からず聞き返すと、「名義上は波平さんが全部持ってるけど、実質みんなの家じゃないですか」と説明され、妙に納得した。
古道具屋で見つけた第二の封筒
当時の地目変更を担当した測量士が亡くなっていたことを知り、彼の遺品を引き取っていた古道具屋を訪ねると、なんと、そこに妹が出したと思われるもう一通の手紙が保管されていた。差出人の控えのようなその手紙が、決定打となった。
暴かれる偽造のからくり
うっかりでは済まされない事実
実は兄が、妹の筆跡を真似て委任状を偽造し、自分の名義に書き換えたのだった。妹が気づいて抗議した手紙は握りつぶされ、彼女は姿を消した。その痕跡が今、ようやく浮かび上がってきた。
犯人はすぐそばにいた
兄は地元の名士として信頼されていたが、登記記録と手紙、そして筆跡鑑定がすべてを語った。僕たちは地裁へ提出する書類を準備した。サトウさんは言った。「委任とは信頼の証。でも裏切ったら、それはただの偽装です」
司法書士の反撃
登記簿に残された正直な証拠
紙は正直だ。登記簿は嘘をつかない。僕は、そこに残された矛盾と履歴をもとに、妹の権利回復の手続きを進めた。十年越しの、無言の叫びが、ようやく届いた。
やれやれ、、、最後は僕が動く番か
最初はただの古い封筒だったのに、こんな大仕事になるとは。やれやれ、、、。でもまあ、これが僕の仕事だ。地味でも、誰かの人生を守るのが司法書士だと、最近ようやく思えるようになってきた。
結末とその後
本物の委任と心の手紙
土地は再び兄妹の共有に戻された。妹はすでに亡くなっていたが、その遺志は登記の中に刻まれた。手紙は僕が大事に保管し、妹の思い出として記録に残した。
サトウさんが見せた珍しい笑顔
「今回は、よくやりましたね」 いつもクールなサトウさんが、ほんの少しだけ微笑んだ気がした。気のせいかもしれない。でも、まあいい。今日も僕はうっかりしながらも、最後には少しだけ、役に立てたらしい。