なぜこんなにも証が欲しいのか
誰かに「あなたがいてくれて助かった」と言われたい。そんなふうに思うようになったのは、きっと誰かの期待に応えようと必死に働いてきたからだ。司法書士として仕事をしていると、感謝されることもあれば、まるで事務的に処理されるだけの存在に感じる日もある。忙しく動いても、誰にも見てもらえない虚しさ。それでも、自分が役に立っているという確かな実感が欲しい。大げさなことじゃない。ただ、必要とされている「証」が欲しいだけなのに。
承認じゃなく実感が欲しいだけ
SNSの「いいね」でも、仕事の数字でもなく、自分の存在が何かにちゃんと影響を与えているという感覚。司法書士という仕事は、書類や登記のように形に残る仕事である一方、感情的なつながりは薄い。感謝の言葉があったとしても、それが形式的なのか本心なのか分からないことも多い。「先生のおかげで助かりました」と言われたとしても、次に繋がらなければ、それは証にはなりにくい。自分の存在意義が一過性のものでなく、積み重ねられる何かであってほしいと願っている。
事務所のドアを開ける前のため息
朝、事務所の鍵を差し込む手が少しだけ重たい。特別な理由があるわけじゃない。ただ、今日も同じように仕事が始まり、同じように誰にも気づかれず終わるのかと思うと、無意識にため息が漏れる。電話のベルや依頼者の表情に一喜一憂する日々。たった一言の「ありがとう」で救われることもあれば、無言のまま帰られると、自分がいた意味を疑ってしまう。誰かの支えになりたいと思って始めた仕事が、気づけば自分の心をすり減らす日常になっていた。
自分が必要とされてると思えたのはいつだったか
振り返ると、最初の頃は些細なことで喜べた。「相談してよかったです」と言われるだけで、胸が熱くなった記憶がある。けれど、いつからか慣れが生まれ、反応がないと不安になるようになった。「あのときの相談、本当に助かりましたよ」と後から言われることもあるが、そんな言葉を待つ間、心が空っぽになっていくのを感じる。もっと素直に、人の役に立てたことを喜べた頃に戻りたい。けれど現実は、目の前の仕事に追われ、感情を味わう余裕すらなくなっている。
司法書士という仕事の中で感じる孤独
人と接する仕事のはずなのに、どこか孤独だ。相談に乗っても、登記を終えても、結果だけが求められているようで、自分の存在そのものは透明に扱われる。大きなトラブルもないが、大きな感謝もない。ただ淡々と業務が流れていく。その中で、「本当にこの仕事、自分じゃなくてもよくないか?」と考えてしまう瞬間がある。誰かにとって自分でなければならない理由が、何ひとつ見つからないような感覚に陥るのだ。
依頼者はいても味方はいない気がする
「またお願いしたいです」と言われても、それはサービスの結果であって、人格に向けられた言葉ではないように感じてしまう。仕事としてはそれでいいのかもしれない。けれど、ひとりの人間としては、それだけじゃ満たされない。依頼者はいても、味方ではない。こちらの疲れや孤独には無関心で、常に「対応の早さ」や「正確さ」ばかりが問われる。まるで機械のように扱われているような気分になるときがある。
「ありがとう」の一言に救われる日もある
それでも、「先生がいてくれてよかったです」と言われる瞬間がある。それはたいてい、こちらが必死になって対応したときだったり、相手の不安に寄り添ったときだったりする。形式的ではない、感情のこもった「ありがとう」。その一言があるだけで、すべてが報われたような気がする。そして思うのだ。結局、自分が求めているのは、数字や実績じゃなく、誰かにとっての“意味”なんだと。
事務員がいてくれるありがたさと申し訳なさ
ひとりでやっていた時期もあったが、今は事務員が一人いてくれる。業務が立て込みすぎてどうにもならないとき、彼女の存在に何度も救われてきた。けれど、それと同時に、申し訳なさも感じている。自分の不器用さや感情の波で、余計な気遣いをさせてしまっていることに、うすうす気づいているからだ。頼りたいけど頼りきれない、感謝したいけど言葉にできない。そんな自分にまた自己嫌悪する。
頼ることと甘えることの境界線
「ちょっとこれお願いしていい?」と口にするとき、心の中では何度もシミュレーションしている。これは頼ってるのか、それとも甘えてるのか。信頼関係があるとはいえ、立場の違いがある以上、すべてがフラットにはならない。その微妙な距離感をうまく保つのは、思っている以上に神経を使う。だから、事務員が気づかないふりをしてそっと助けてくれるとき、ありがたさよりも、情けなさが先に立つ。
感謝してるけど伝えられない不器用さ
たまには「いつも助かってます、ありがとう」と素直に言えばいいのに、それができない。仕事だから当たり前、という言い訳で自分を守っている。けれど、本当は伝えたいのだ。彼女がいなかったら、この事務所はきっと回っていない。忙しいふりをして本音を隠す自分が、ますます孤立を深めているのかもしれないと思う。だけど、口にするのはどうしても恥ずかしくて、今日もまた、心の中だけでつぶやいて終わる。