婚活より登記が得意な男
登記はスムーズでも恋愛は錯綜
朝9時。書類の山を前にして、俺はまた独り言をこぼした。「ふぅ、今日も不動産の名義変更からか…」
すると奥のデスクで書類をチェックしていたサトウさんが、すかさず言った。「先生、登記は完璧ですけど恋は未提出ですね」
思わずボールペンを落としかけた。うまいこと言うなあの人は。
朝の依頼電話とサトウさんの冷静な一言
「あの、急ぎで所有権移転の登記をお願いしたいんですけど…」
電話の向こうの依頼者の声はどこか不安げだった。書類を確認すると、婚姻関係にあるとされる人物が一方的に遺産を処分しようとしているようだ。
「先生、登記は完璧ですけど恋は未提出ですね」
「婚活の話はしてないだろ…」とつぶやくと、サトウさんはにやりと笑った。「ええ、でも最近その話ばっかりしてますよ」
まるで波平に「また縁側で茶すすってる場合じゃないぞ!」と言われている気分だ。
法務局と結婚相談所の扱いの違いにモヤる
法務局は書類が揃えば受け付けてくれる。文句も言わず、淡々と。
結婚相談所は…?条件に合いませんの一点張り。
「登記のほうが、まだ俺に優しいな」そんなことを呟く自分に少し哀しくなる。
婚活パーティーの誘いと法定相続情報一覧図
「先生、土曜の夜、婚活パーティーのチラシ貼ってありましたよ」
「その日、相続登記の面談入ってる」
「キャンセルできますよ?」
「…そうだけど、法定相続情報一覧図の作成が楽しくてね」
「それより未登記の土地が気になるんだよね」
婚活の成功率より、未登記土地のリスクの方がよっぽど現実的だ。
「感情より物件概要のほうが扱いやすいって、どうなんだ俺」
元野球部のノリが通じなかった夜
先日行った婚活イベントでは、元野球部トークも不発だった。「キャッチボールしませんか?」なんて誘ったら、「え?」と引かれた。
…昔のタッチの南ちゃんとは違うらしい。
事件は登録免許税の陰で起きていた
その依頼は、ただの登記では終わらなかった。
依頼人からの不可解な依頼内容
「婚姻関係の証明書じゃなくて登記簿を見てほしいんです」
その依頼者は不思議なことを言った。
「配偶者が勝手に不動産を売却してて…でも、婚姻届は出した覚えがないんです」
「婚姻関係の証明書じゃなくて登記簿を見てほしい」
あえて言う。これは怪しい。
まるで探偵物語のようだ。「それ、登記でトリック使ってる可能性ありますよ」
やれやれ、、、また変な案件だ
パズルのような戸籍と、矛盾だらけの申請書類。
やれやれ、、、また土曜の夜が潰れるな。
戸籍と嘘と遺産争い
よく見ると、その夫婦は事実婚状態で、登記簿上は単独名義。だが婚姻届が出されていたら、配偶者の権利が発生している。
つまり、誰かが偽装していた。
婚姻の事実に潜む違和感
記載された婚姻日は、相続開始の直前。しかも転出届が直後に出ている。
これは……典型的な“登記カモフラージュ”の可能性。
サトウさんのひらめきが謎を裂く
「先生、婚姻届が本物だとしても、これ裏で調停してたら面白いですね」
「サトウさん、さすがだ。探偵になったほうが稼げるかもな」
登記簿が語る真実とひとりの夜
こうして、登記情報と戸籍謄本を突き合わせ、事実関係を明らかにし、依頼人は無事に権利を守れた。
犯人は司法書士を舐めていた
彼らは、司法書士を“ただの書類屋”だと思っていたようだ。
地目が違えば気づくはずだった不整合
しかし、地目や建物構造、記載のズレを見逃さなかったこの俺は、ただの独身の元野球部ではない。
「そこまで見てるのは先生くらいですよ」
サトウさんは感心したように言った。
でも俺は、「それでも婚活では気づいてもらえないけどな」と心の中でつぶやいた。
解決したのに心はモヤっとしている
どんなに完璧な登記をしても、心の空欄は埋まらない。
婚姻届の一枚が、こんなにも重く、複雑な感情を運んでくるとは。
帰り道の交差点にカップルの影
夕暮れの信号待ち。手をつなぐカップルの姿に目をそらした。
俺には手をつなぐ相手はいない。でも書類の押印位置は間違えない。
今日もサトウさんにだけは感謝の気持ちが湧く
事務所に戻ると、サトウさんがそっとコーヒーを差し出してくれた。
「先生、次は恋の登記もがんばりましょう」
「…やれやれ、、、それは登録免許税じゃ済まないな」