おせっかいおばちゃんに救われた日
事務所に舞い込んだ奇妙な依頼
蒸し暑い梅雨の午後。エアコンの効きも悪く、サトウさんの機嫌も最悪なその日、うちの司法書士事務所に、どこかで見たような顔がふらっと現れた。
「あら、シンドウちゃん、相変わらず顔色悪いわねぇ」
声の主は、近所でも有名なおせっかいおばちゃん、ツルオカさんだった。
依頼人は近所でも有名なおせっかいおばちゃん
「今日はね、ちょっと相談があってねぇ」
ツルオカさんは勝手知ったる様子でソファに腰を下ろすと、タオルで汗を拭きながら語り始めた。
「隣のトモコさん、亡くなったでしょう? ほら、あの人、昔ね、うちの町内会の班長やってた…」
話が長い。いつも通りだ。
「あんたしかおらんのよ」と押し切られる
「トモコさんの遺言書があるんやけどね、なんか様子がおかしいの。あたし、見てもうたんよ」
それは明らかに、司法書士として聞き流せない言葉だった。ツルオカさんは妙に真剣な目で、封筒の写真を差し出してきた。
サトウさんの冷ややかな視線とため息
「どうせまたご近所のゴシップでしょうね」
とサトウさん。
「シンドウ先生、これ受けるんですか?お茶菓子代わりに依頼持ってくる人っているんですね」
彼女の皮肉は、年々鋭くなっている。
遺言書の謎と町内の人間模様
渡されたのは古びた写真と、簡素な遺言書の写し。差出人不明の便箋には、「この子にすべてを」とだけ書かれていた。
亡くなった隣人と残された一通の手紙
写真には若き日のトモコさんと、小さな女の子の姿。
だがトモコさんに子どもがいたという話は聞いたことがなかった。ご近所の証言もまちまち。これでは探偵ナイトスクープ状態だ。
「この人、ほんまにそんなこと言うたん?」
ツルオカさんが言うには、「その子はね、あの人の心残りやったのよ。あんた、それ証明できんの?」
証拠もなしに言われても、うちも無限に動けるわけではない。やれやれ、、、と僕は頭を抱えた。
おばちゃんの証言と食い違う事実
サトウさんが資料を洗い直したところ、トモコさんが数年前にこっそり認知届を出していたことが分かった。だがその子は現在、遠方に住んでおり、連絡が取れない状態だった。
調査の果てにたどり着いた真実
まるで探偵コナンのような謎解きの末、私たちはその娘とされる女性に辿り着いた。彼女は自分が認知されていた事実すら知らなかった。
古びた写真とおせっかいの理由
「あの人、何も言わずに消えるつもりだったんでしょうね」
その女性はぽつりと呟いた。写真は彼女の存在を知る唯一の証拠だった。おばちゃんの“おせっかい”は、無視できない真実への鍵だった。
過去の後悔が生んだ“おせっかい”という優しさ
ツルオカさんは、自分も若い頃に家族と絶縁したことがあったと言う。
「見過ごしたら、また誰かが泣くかもしれんやろ?」
うるさいだけのおばちゃんだと思ってた。でも、それは違った。
「あの人の気持ち、代弁したかっただけや」
結局、トモコさんの遺志は正式な遺言として私が整え、その女性にきちんと伝えることができた。町内の人間模様の裏に隠れた“想い”をつなぐのも、司法書士の仕事なのかもしれない。
やれやれと言いながらも心は少し軽くなる
「やれやれ、、、こんな仕事まで引き受けるなんてね」
帰り際、ツルオカさんはにっこり笑って言った。
「あんた、やっぱり正義の味方やねぇ。ほら、昔のサザエさんの波平さんみたいやわ」
それは褒められてるのか、いじられてるのか。
司法書士として人の想いを受け止めるということ
名探偵でも怪盗でもないけれど、私は少しだけ、人の気持ちを解き明かせた気がした。
静かな夕暮れ、サトウさんが一言。「たまには、いい仕事しますね」
その顔は、少しだけ笑っていた。