後見の帳簿は夜開く

後見の帳簿は夜開く

後見の帳簿は夜開く

書類の山に埋もれた午後

窓の外は夏の陽射し。だが僕の机の上は、まるで冬の山小屋のように紙とファイルに埋もれていた。
「先生、これ、今日中に見といてください」と塩対応のサトウさんに言われ、そっと目を背ける。
午後3時。アイスコーヒーもぬるくなっていた。

訪ねてきたのは見知らぬ娘

「すみません、父のことでご相談が…」
スーツ姿の若い女性が事務所の扉をそっと開けた。聞けば、亡き父はかつて後見人に任命されていたという。
だが、彼女の声にはどこか釈然としない響きがあった。

遺産の代わりに残された謎の通帳

父の遺品の中に通帳があった。だがそれは彼名義ではない。
預金額は200万円。しかも数ヶ月前まで毎月引き出しがあったという。
「これ、父が管理していた方の口座じゃないかと…」彼女の目が揺れていた。

遺言と後見人の名前が一致しない

戸籍と後見登記簿を確認したが、娘の語る内容と帳簿の記録に矛盾があった。
後見人として登録されていたのは、まったく別の名前だったのだ。
「父は、そんなこと一言も言ってませんでした」と彼女は呟いた。

帳簿に見え隠れする使途不明金

成年後見制度の帳簿が残っていた。だが肝心な支出欄が一部破られていた。
その代わり、手書きのメモに「支援費 飲食」「交通費 出張」などと曖昧な言葉が並ぶ。
明らかに、これは“あの手の金”だ。

サトウさんの淡白すぎる推理メモ

「先生、たぶんこれ、使ってましたね。勝手に」
無表情に言い放つサトウさん。付箋には“裏金?要調査”とだけ記されていた。
僕は言葉に詰まりながらも、書類の束に手を伸ばした。

消えた金と消された過去

どうやらその金は、複数人の後見人が関与していた時期に動いたらしい。
だが、亡くなった父以外の関係者は皆、どこか影を潜めていた。
まるで記憶ごと封印されたように。

デイサービスからの不審な電話

「●●さんですか?今さら何の用ですか?」
僕が電話をかけると、向こうの声は警戒心に満ちていた。
施設に預けられていた高齢者の帳簿に、あの通帳の番号が記されていた。

窓口の沈黙と裏口の囁き

福祉課の担当者は曖昧な笑みを浮かべ、何も答えようとしなかった。
そのくせ、帰り際にぼそっと「皆さん、口止めされてますから」と呟いた。
見えない圧力が、この町を包んでいた。

施設長のひとことににじむ悪意

「帳簿のことは弁護士に聞いてください。あとは何も知りません」
冷たい声の奥に、かすかな動揺があった。
サザエさんで言えばノリスケが磯野家の冷蔵庫を勝手に漁るレベルの不自然さだ。

封筒の中身とハンコの違和感

押印された後見契約書を確認した瞬間、僕は思わず声を漏らした。
「このハンコ、印鑑登録証と違うじゃないか…」
つまり、誰かが偽造していたのだ。

家庭裁判所の静かな爆弾

家庭裁判所の記録は正しかった。が、それが逆におかしかった。
提出された帳簿の写しは、僕が手にした原本と“中身”が違っていたのだ。
どちらが本物なのか、それはもう明白だった。

やれやれ、、やっぱり俺が行くのか

こんなこと、弁護士がやるべきじゃないのか?
そう愚痴りながらも、結局は僕が家庭裁判所に報告書を提出した。
サトウさんは「じゃ、明日から新しい案件ですね」と淡々としていた。

白い帳簿の黒いページ

報告の結果、町の福祉団体に調査が入り、複数の後見人が処分を受けた。
白い紙に書かれた帳簿の、あまりにも黒い現実。
だが、亡き父の名は最後まで汚されることはなかった。

意外な結末とサトウさんの無言

「娘さん、笑ってましたよ」
僕の言葉にサトウさんは何も返さなかった。ただ、机の上の書類を無言で片付けていた。
少しだけ、彼女の目が優しかった気がする。

明日の登記よりも今夜の弁当

「で、先生、今日は牛丼ですか?カツ丼ですか?」
ふと現実に引き戻されるサトウさんの問い。
「じゃあ…カツ丼。いや、やっぱ牛丼…やれやれ、、、」僕は頭を抱えた。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓