空中権に沈んだ契約書

空中権に沈んだ契約書

空中権に沈んだ契約書

雨の音と依頼者の影

外はしとしとと梅雨の雨。湿った書類と気だるい空気に囲まれて、僕は事務所のソファで半ば居眠りしていた。
そんな中、扉の音が鳴った。現れたのは、古びたレインコートを羽織った中年男性。彼はどこか怯えた目をしていた。
「空中権のことで、相談がありまして……」それが全ての始まりだった。

空中権の説明にうんざり

空中権とは、建物の上空を利用する権利のことだ。世間的には珍しい話だが、法的には一応成り立っている。
依頼者は十年前に売却したアパートの上空に、別の建物を建てられる計画が動いているという。
「俺の許可なしに話が進んでるんですよ…」と、彼は机の上に古い契約書を置いた。

古アパートの立体的な秘密

物件は市内の古い木造アパート。たしかに建ぺい率も容積率もギリギリだ。
資料をめくっていたサトウさんがぽつりと言った。「これ、空中権の登記、されてませんね」
彼女が指で示した登記簿の空欄に、妙な既視感を覚えたのは、たぶんこの前見たコナンの回のせいだろう。

サトウさんの毒舌と慧眼

「こんな契約、素人が見たらただの紙ですね」
ああ、今日も辛辣だ。でも彼女の視点は正確だ。どうやら過去に結ばれた契約には不備が多かったらしい。
「見てください。この第八条。これは……抜けてますね、同意の取り消しに関する文言がない」

売買契約に潜む「抜け」

契約書を精査すると、確かに重要な項目がまるごと抜けている箇所があった。
まるで誰かが「意図的に」その条文を書き損ねたかのような構成だった。
依頼者は頭を抱え、「こんなことなら弁護士に…」と言いかけたところで、僕は制した。

地主の証言と食い違う登記

地主のもとを訪ねると、彼は堂々と語った。「契約は全て終わってる。上に建てる許可も得てるさ」
だが、登記簿はそれを証明していなかった。サインの筆跡も、微妙に違って見える。
「やれやれ、、、また面倒なパターンだ」僕は頭をかいた。

空中権の消失と偽造の可能性

ファイルを何度も見直すうちに、僕はふと気づいた。ある日付を境に、印鑑証明が一つも添付されていない。
それどころか、契約書に使われているフォントが途中から変わっているのだ。
「これ、偽造ですね」とサトウさんが淡々と呟いた。まるでルパンの仕業を暴く銭形警部のように。

サザエさん式推理タイム

すべての手がかりが揃ったところで、頭の中でピンと線がつながった。
「つまり、誰かが勝手に古い契約書を修正し、新たな空中権の譲渡契約を偽装したってことか」
そう、今回の真犯人は、契約当時の代理人だった――つまり、不動産仲介業者。

契約書の「第八条」に落とし穴

第八条の記述は、実は当時の印刷エラーではなく、意図的なブランクだった。
そこに後から一文を挿入し、「同意があったこと」にしてしまった。
だが、PDFでは改ざん履歴が残っていた。サトウさんがそれを暴いたのだ。

やれやれ、、、騙されたのは誰だ?

結局、依頼者もまた加担していた可能性があった。
最初から登記がされていないことを知っていながら、それを隠していた節がある。
「やれやれ、、、登記簿より人の心のほうが読みづらいですよ」と、僕は独り言をこぼした。

サトウさんの一撃と無言の喝采

警察に資料を渡す前、サトウさんが言った。「これ、昔ルパン三世の劇場版で似たトリックありましたよね」
あれは確か『カリオストロの城』。古文書の重なりで偽造された地図のやつだ。
「昭和のネタばかりですね」と呟かれ、僕は黙ってファイルを閉じた。

犯人は誰よりも近くにいた

結果として、不動産仲介業者と依頼者の共謀が立証され、空中権の譲渡は白紙になった。
サトウさんの調査メモは、まるでコナンの「推理ショー」のようだった。
僕はただの助手だな…とちょっと悔しい気持ちになった。

結末の登記と空に残る痕跡

登記の訂正申請を終え、空中権は再び元の持ち主へと戻った。
とはいえ、もはやそのアパートに何かを建てるような余地もなかった。
「真実は空の上」――なんて言葉はサトウさんには通じないだろう。

シンドウのひとり反省会

「おれ、もっと早く気づけたんじゃないか?」
反省してみても、すでに事件は解決している。後悔だけが雨のように降り続いていた。
コーヒーの湯気を眺めながら、野球部時代のサインプレーを思い出した。サインは読み間違えると痛い目に遭う。

喫茶店で語られる後日談

あの日と同じ喫茶店で、依頼者の妻が偶然来店してきた。
「実は私、全部知ってたんです」と言って微笑んだ。
やれやれ、、、まだ続きがあるのかもしれない。

ファイルに残った未解決の謎

サトウさんのデスクには、もうひとつ未処理のファイルが積まれていた。
そこには「敷地権未登記」と赤ペンで書かれている。
また、雨が降りそうだ。事件の匂いがする。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓