登記簿が暴いた嘘
夏の午後に届いた一本の電話
蝉の声がうるさい午後、事務所に鳴り響いた電話のベルは、少しだけ不穏だった。受話器を取ったときの女性の声は震えていて、まるで過去から逃げてきたようだった。内容は「亡き父の登記名義が、おかしい気がする」というものだった。
サトウさんの冷たい推理
「その“気がする”がだいたい正しいんですよね」とサトウさんはパソコンを打ちながら呟いた。あの塩対応には毎度のことながら刺される。やれやれ、、、こっちは昼飯も食べてないってのに。
古びた登記簿に記された異変
法務局で閲覧した古い登記簿には、数年前に亡くなった父親名義の土地が、なぜか昨年名義変更されていた。しかも変更の理由が「贈与」となっている。だが、贈与者は故人のままだ。
消されたはずの名義
贈与の日付は、被相続人の死亡日から一年以上後だった。それだけで矛盾している。登記識別情報が利用されていたが、それすらも廃棄されていたはずなのだ。これは「誰か」が意図的に操作したものだ。
やれやれ、、、またか
不正登記のにおいは、いつだって人の欲の裏側にある。昔観た『キャッツアイ』のように、巧みに仕掛けられたトリックに心が踊ることもあるが、現実の犯人は泥臭く、そして身近だ。「やれやれ、、、」と、またため息が出る。
相続人の影を追って
家系図を辿ると、相続人は長女ただ一人。その長女が知らぬ間に土地が他人名義になっていたという。署名も捺印も彼女のものではなかった。「これは、、、完全にやってますね」とサトウさんは淡々と断じた。
固定資産税台帳の矛盾
市役所で確認した課税情報によると、数年間は亡父名義のままで納税されていた。だが、登記簿では贈与済みとなっていた。矛盾に気づかせないための意図的なずらし。まるでコナンの黒ずくめの組織だ。
記録を遡るとき見えてきた真実
登記申請書の写しを手に入れ、提出者名を確認すると、意外な名前が浮かび上がった。近隣に住む、亡父の生前から世話好きで通っていたという男性だった。彼は地元の不動産業者でもあった。
怪しい委任状の謎
添付されていた委任状の日付は、贈与登記と同じ日付。しかし、公正証書でもなく、署名は手書きながら不自然に整っていた。「プリンタで作ったあとにトレースした感じですね」とサトウさんは一瞥しただけで見抜く。怖い。
隣人が語った亡き父の過去
聞き込みをしてみると、父親は晩年かなり認知症が進んでいたらしい。お世話になった男性が頻繁に通っていたのは事実だが、金銭を要求していたとの噂も出てきた。「これは、、、介護と信頼の隙を突いた犯行ですね」とサトウさん。
サトウさん、静かに笑う
「こういう案件は、たいてい“善意の第三者”を装うのが常套ですから」と、サトウさんがニヤリと笑った。思えば『ルパン三世』でも、偽の遺言や変装が定番ネタだったな。こっちは泥まみれの登記簿をひたすら追うしかない。
真犯人は記録の外にいた
結局、贈与登記の申請は名義人の死後に不正に取得された登記識別情報を用いて提出されたもので、裏では行政書士を名乗る男が関与していた。だが彼はすでに所在不明。完全に記録から姿を消していた。
登記簿が語った最後の証言
それでも、登記簿は全てを覚えていた。誰がいつ、どんな意図で動いたかは、ちりばめられた数字と名前の中に痕跡として残っていたのだ。まるで無口な証人のように、静かに真実を語ってくれた。
司法書士の仕事はここまで
調査結果を長女に報告し、刑事告訴を含めた対応を弁護士に引き継いだ。僕の仕事は、あくまで登記の範囲まで。だけど心には重い何かが残った。法の隙間を突く者に対し、何かもっとできることはないのかと。
でもまだ僕の愚痴は終わらない
事務所に戻ると、サトウさんが言った。「コーヒー、もう切れてますけど?」「あ、ああ、、、買ってくるよ、、、」。やれやれ、、、司法書士って、やっぱり地味に報われない職業だよな。