登記簿が暴いた終の真実

登記簿が暴いた終の真実

登記簿が暴いた終の真実

朝の事務所に届いた一本の電話

その朝、コーヒーを口にした瞬間だった。事務所の電話が鳴り、受話器を取ったサトウさんが小さくため息をついた。声の調子からして、また一筋縄ではいかない依頼のようだ。

老人ホームの遺言書に潜む違和感

依頼は、ある老人ホームに入所していた故人の遺言書に関するものだった。遺言の内容自体には形式上の不備はなかったが、相続人が一様に「こんな内容はおかしい」と口を揃える。違和感は確かにあった。相続の全てが、世話になっていた職員ひとりに集中していたのだ。

現地調査という名の小旅行

私はサトウさんと共に老人ホームを訪れた。片田舎の山のふもとに立つその建物は、まるで昔のサザエさんのエンディングに出てきそうな木造の平屋だった。清潔で静か、しかしどこかひんやりしている。

亡き老人の部屋に残された謎のメモ

施設の許可を得て、故人の部屋を見せてもらった。引き出しの中には手帳があり、その中に「通帳 5 施設 記帳 記録 消」とだけ書かれた紙が挟まれていた。意味ありげなメモだが、何が言いたいのかまでは分からない。

サトウさんが睨んだ数字の意味

事務所に戻ったサトウさんは、パソコンの前で記帳履歴と遺言日付の照合をしていた。やがて口を開いた。「これ、遺言の日に通帳の残高が一気に減ってます。五百万、ぽんっと消えてるんです」

元施設職員の証言と食い違う記録

遺言で全財産を受け取るはずの施設職員に話を聞くと、「おじいちゃんは感謝の気持ちで全部私にって言ってました」とさらっと答えた。しかし通帳の取引明細と、押印された遺言書の日付がどうにも合わない。

登記簿の変遷が語る不可解な移転

故人が所有していた土地の名義が、生前にすでに変更されていたことに気づいた。相続ではなく「売買」として。しかも登記の日付が遺言と同じ日である。これにはさすがに私も眉をひそめた。

土地の名義変更に潜む罠

売買契約書を取り寄せて確認すると、売主欄の署名が不自然だった。筆跡鑑定を依頼すれば、明らかに別人の手によるものと出た。つまり、誰かが偽って登記を済ませたということになる。

認知症診断書と押印日の矛盾

さらに調査を進めると、故人はその半年前にすでに重度の認知症と診断されていた。つまり、自筆遺言も登記手続きも、その能力があるとは到底思えない時期のものだった。

通帳から消えた五百万円の行方

通帳の履歴には、施設近くのATMで大金が引き出された記録があった。だが、その金がどこに行ったのかは不明のままだった。「やれやれ、、、泥沼の匂いがするな」と、私は無意識に口に出していた。

怪しい家族の言い分と反論

遺産を受け取るべきだったはずの家族は、施設側に強く抗議していた。しかし、遺言と登記という「書面の力」が前に出る限り、話は前に進まない。そこで私は、少し古典的な手を使うことにした。

サザエさん一家ならここで解決するのに

「こういうとき、波平さんなら正論で押し切ってカツオが泣いてるんですよ」と私はつぶやいた。するとサトウさんが、「カツオがATM使えるわけないですしね」と冷たく返してきた。

決め手は古い登記済証の束だった

故人の親族が保管していた古い書類の中に、本人がかつて書いた売却拒否の手紙が見つかった。そこには、「誰にも譲らん、大事な土地じゃ」としっかり記されていた。施設職員が提出した売買契約書とは真逆の内容だ。

真実が語られた静かな終末

偽造の証拠が揃い、施設職員は観念した。全財産を返還し、法的手続きの上で相続は正式に家族に戻された。どこか、故人も空の上で「やれやれ」と言っている気がした。

シンドウの愚痴とサトウさんの冷たい視線

事務所に戻ると、また別件の相談が留守電に入っていた。私はぐったりと椅子に沈み、「いつまでこんなこと続くんだろうなあ」と愚痴った。サトウさんは、「シンドウさんがうっかりしてるうちは、永遠ですよ」と言い放った。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓