封印された土地の秘密
書類の山に埋もれて
雑然とした事務所の机の上、封筒の隙間からのぞいた古びた登記簿がシンドウの目に留まった。差出人の名前も宛名もない。中には火災で煤けたような登記識別情報通知と、「この土地の謎を解いてください」とだけ書かれた手紙が一枚。
シンドウは深いため息をついた。「また面倒なやつか……」独り言をこぼしながらも、資料を手に取り読み始めた。
サトウさんの冷静な分析
「これ、所有者の名前、途中で消えてますね」
背後から声がした。サトウさんが、無言のままプリンターで戸籍を打ち出しつつ、ちらりと登記簿を覗いている。
「あと、相続記録が一切無いのに、抹消の記録だけがある。これは相続人が見つからなかった、いわゆる相続人なき遺産じゃないですか?」
登記簿に残る空白の年月
昭和の終わり頃に登記された土地は、それ以降30年間、誰の手にも渡っていない。平成の初期に抹消の仮処分が申請された形跡があるが、途中で手続きが止まっていた。
不自然な沈黙に包まれた書類たち。シンドウは、その背後に何か重い事情を感じ取った。
地元住民の証言
週末、シンドウはスーツに身を包み、土地があるという郊外の集落に向かった。道中、山道のバスの振動で胃が痛くなったが、それでも降りた先には古い町並みと、ぽつんとした古屋敷が広がっていた。
近隣の住民に話を聞くと、「ああ、あそこね……火事で一家が焼け死んだって噂だよ」と小声で囁かれた。町の空気が、どこかしらルパン三世のカリオストロ伯爵の城を思わせる、不穏な静けさに包まれていた。
土地に隠された事故の真相
シンドウは役所で古い消防記録を閲覧した。確かに20年前、この住所で火災が発生している。だが、記録上、死亡者の名前は「不明」と記されていた。
「不明、ってことは……戸籍と一致してない?」
職員に確認すると、名義人の記録は別の地域で抹消されていたことが判明する。これは何かがある。
やれやれ調査は思ったより長引きそうだ
冷房の効かない郡の役所で、紙の束と格闘していたシンドウは、額の汗をぬぐった。
「サザエさんのエンディングみたいに、軽やかに終わる週末を期待してたのにな……」
椅子の背にもたれて小さくつぶやいた。「やれやれ、、、おれ、司法書士じゃなくて探偵だったっけ?」
カギは除籍謄本にあった
東京の方から取り寄せた除籍謄本に、ある一人の女性の名前があった。かつて養子縁組されたが、婚姻後に別姓を名乗っていたため見落とされていた人物。
「名前の読み方が変わってただけです。これ、ルビがなかったら気づかないでしょうね」
サトウさんがドライに言いながらも、どこか誇らしげに見えた。
サトウさんの推理が冴える
「そもそも、この女性が火事のあとで婚姻届を出して、今は別の姓で生きている可能性があるんです」
彼女は手際よく住基ネットを調べ、数分後には現在の居住地まで突き止めていた。まるで名探偵コナンの阿笠博士が言うように、「バーロー、証拠はいつもひとつ」だ。
封印された登記の真実
結局、当時の登記官が所有者の死亡を見落としたまま処理を始めたことが原因だった。しかも、その後誰も訂正を入れず、結果として20年の空白が生まれていた。
「誰かが封印したってより、うっかり放置されてた感じですね。あなたみたいに」
サトウさんの塩対応が、今日も冴え渡る。
名義回復と司法書士の矜持
正当な相続人が見つかり、登記の回復が行われた。長い眠りから覚めた土地は、ようやく新しい所有者のもとへ渡ることになった。
シンドウは申請書類の角をそろえながら、小さく肩を落とした。「やれやれ、、、結局また休日返上か……」
やれやれ今日もなんとか形になった
事務所に戻ると、すでにサトウさんが机の上に次の案件を積んでいた。
「次は隣町の墓地登記です。内容、ちょっと複雑かも」
「またか……」と呟くシンドウ。その姿は、かつてバットを振り回していた頃と同じくらい、不器用ながらも懸命だった。