提出ミスと頭を下げた夜に思ったこと

提出ミスと頭を下げた夜に思ったこと

あの日の夜に戻れたらと思った

司法書士という職業を長年続けていると、小さな成功や失敗の積み重ねで精神のバランスを保っている気がします。けれど、ある晩、提出ミスという些細なミスで上司――というか、取引先の大手の不動産会社の部長に頭を下げた瞬間、何かが崩れました。自分でも情けなくなるくらい動揺して、その夜は帰り道の車の中でずっと口数も少なく、ラジオの音だけが虚しく流れていました。

提出ミスは些細でも信頼は崩れる

問題の書類は、ある相続登記の案件。期限に追われていたとはいえ、完全にこちらの確認不足。押印欄が一箇所抜けていたんです。相手側は一度で処理したいタイプの方だったので、当然のように不機嫌になり、こちらにとっては冷や汗の出る展開。昔から、野球でもそうでしたが、エラーをしたときのあの空気って、何年経っても変わらないものですね。

見落とした書類の一枚が引き金に

事務所に戻って確認すると、確かに控えのファイルにはハンコが抜けたままのページが。正直、その瞬間に全部のやる気がしぼんだような気がしました。なぜ見落としたのか、自分でもわからない。ただ「急いでいたから」「疲れていたから」と理由をつけてごまかしたくなる。でもそれって、仕事を受けた以上、言い訳にすらなりません。

事務員の視線が痛かったのも事実

事務員の女性も気づいてなかったのですが、彼女に責任はないとわかっていても、なぜか自分の不甲斐なさをごまかすように「確認してなかったよね」と言いかけてしまいました。でも言葉にはせずに飲み込みました。結局、その日の午後は気まずい沈黙。誰も責めてないのに、勝手に自分が落ち込んで、勝手に空気を悪くしていたような気がします。

謝罪よりも先に来る自己嫌悪

電話での謝罪が終わったあと、思ったよりも自分が落ち込んでいることに驚きました。相手の怒りより、自分への怒りの方が大きいんです。「ああ、またか」「まだこんなミスをするのか」。そんな言葉がぐるぐると頭の中を回って、事務所の椅子に深く座ったまま、天井を見つめていました。自分で自分を責める癖、いい加減やめたいのに。

言い訳が浮かんでも口には出せない

本当は、「最近忙しくて」「役所とのやり取りが立て込んでいて」などと言い訳したい気持ちもありました。でも、それを言ったところで何の意味もないし、むしろ信頼をさらに失うだけだとわかっている。司法書士という職業は、言い訳をしないことが信用につながる仕事です。だからこそ、言いたくても言えない。ぐっと飲み込むしかない夜があるんです。

頭を下げる姿に自分の情けなさが滲む

直接お会いして謝罪したわけではなかったけれど、電話越しに何度も「申し訳ございません」と頭を下げるように声を落としている自分がいました。電話を切った後、ふと鏡に映った自分の顔が、ものすごく老けて見えました。なんだか、一人相撲を取って、勝手に自滅しているような、そんな夜でした。

ミスをした自分とどう向き合うか

この仕事をしていると、「完璧」を求められる場面が多く、プレッシャーも大きいです。でも、だからこそ、どこかで自分の中に逃げ道を作っていたように思います。「こんなに忙しいんだから、多少のミスは仕方ないよな」と心のどこかで。今回の提出ミスは、そんな甘えに対する戒めだったのかもしれません。

原因を突き詰めると慢心にたどり着く

経験が増えてきたことで、「このくらいなら大丈夫」と思う場面が増えていたのも事実です。手を抜いたわけじゃない。でも、注意深さが鈍っていた。昔の自分だったら三度確認していたようなところを、今は一度で済ませてしまっている。司法書士にとって慢心は命取りです。今回のミスで、改めて初心に返る必要があると痛感しました。

忙しさを理由にしていた甘え

一人事務所である以上、すべてを完璧にこなすのは難しいです。だけど、それを「できない理由」にしていた自分がいたのも事実です。「これ以上は無理だ」と思った瞬間に、仕事の質が落ちる。そんな当たり前のことを、今回の失敗でようやく思い出しました。言い訳の数だけ、信用は減っていく。そんな現実が重たくのしかかっています。

ひとり事務所の限界も見えた瞬間

正直、人を増やしたいとはずっと思っていました。でも田舎で、人材も限られていて、教える余裕もない。そんな中で何とか回してきたけれど、やっぱり限界はある。今回のようなケアレスミスが再び起こらないようにするには、根本的な仕組みを見直す必要がある。そう思っても、すぐにできるわけではない。だからまた悩む。堂々巡りです。

司法書士という仕事の重さを再確認

日々の業務に追われる中で、自分が担っている責任の重さをつい忘れがちになります。でも、こういう時こそ、「これはただの書類ではない」という基本を思い出さなければならない。依頼者の人生の一部に関わっている。その重さがあるからこそ、この仕事は続ける価値があるのだと、改めて思わされました。

失敗できないプレッシャーが心をすり減らす

司法書士の世界には「一発勝負」が多すぎます。提出後にやり直しがきかない案件、相手が待ってくれない場面、すべてが「慎重に」「確実に」でなければならない。だから、少しずつ疲弊していく。でも、誰にもそれを見せられない。弱音を吐けば「信用されない」と思ってしまうから。だからこそ、こういうミスは心の芯を削ってくるんです。

信用商売は一つのミスでも傾く

依頼者や取引先との信頼関係は、長年かけて築いたとしても、一つのミスで崩れてしまうことがあります。それが司法書士という職業の恐ろしいところでもあります。今回も、もう二度と案件を回してもらえないかもしれないという不安がよぎりました。信頼を守るには、日々の細かい仕事の積み重ねしかないのです。

田舎だからこその噂の早さが怖い

都会なら、多少のミスは情報の海に紛れていくかもしれません。でも田舎では、評判はあっという間に広がります。「あの先生、最近雑になったよね」なんて声が、翌日には近所の金融機関まで届いていたりする。噂の怖さと同時に、自分が支えてもらっている地域の目の厳しさも痛感しました。

それでも前を向くために必要だったこと

どんなに落ち込んでも、仕事は待ってくれません。だからこそ、立ち止まりながらも少しずつ前を向くために、自分の中で何が大切なのかを考える時間が必要でした。完璧じゃなくてもいい。でも、誠実でありたい。その気持ちだけは、失いたくないと思っています。

誰かに話すことで救われることもある

その夜、ふとしたきっかけで、昔の野球部の先輩に電話しました。仕事のことを話すつもりはなかったけれど、なんとなくぽろっと話してしまったんです。すると先輩が、「お前、昔から気にしすぎなんだよ。ミスしても次の打席でヒット打てばいいんだろ」と笑って言いました。その言葉で、少し肩の力が抜けました。

昔の野球部の先輩の一言が沁みた夜

あの頃、三振してベンチで落ち込んでいると、監督に「次、打てばいい」とよく言われていました。社会に出ると、次がある保証はないけれど、でも「次を目指す姿勢」だけは持ち続けたい。その夜、部屋の明かりを消す前に、久しぶりに小さく「明日もやるか」とつぶやいてみました。

失敗を語れる場の価値を知る

こうして文章にしてみることで、自分の気持ちが少し整理された気がします。司法書士という職業は、表に出しにくい苦労が多い。でも、だからこそ、失敗を語れる場が必要だと思います。読んでくれたあなたが、少しでも「自分だけじゃない」と思ってもらえたなら、それだけで、この夜にも意味があったのかもしれません。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓