褒めてくれる人がいない仕事がつらい日は猫の動画に救われている
誰にも褒められない職場で働くということ
「また自分でやるのかよ……」
朝、誰もいない事務所でプリンターに紙を補充しながらつぶやいた。紙は自動では補充されないし、スキャンした書類はなぜか斜めになる。司法書士とはいえ、雑用係も兼任だ。
サザエさんの波平よろしく「これは誰の仕事じゃないのかね」と言いたくなるが、言っても自分に跳ね返るだけだ。サトウさんはというと、すでに淡々と案件のチェック中。完全に名探偵コナンの灰原ポジションで、こちらの心の動きには無関心だ。
「やって当たり前」の空気が心を削る
それでも回るこの事務所。電話を取り、登記簿を確認し、依頼人に丁寧なメールを返す。だが、「先生、助かりました!」のようなセリフは、もう何ヶ月も聞いていない。
怪盗キッドばりの華麗な法務テクニックを駆使しても、拍手どころか無反応。それどころか、「まだですか?」の一言に、心がモノクロームに沈んでいく。
朝イチの電話対応から夜の書類確認まで
「朝から書類確認、昼は登記申請、夜は依頼人対応……」
ひとつでも抜けると誰かが困る。だが、自分が困っている時には誰も助けてくれない。このループ、どこかで見たな……そう、永遠に終わらない波野家の夕食シーンみたいだ。
ひと言でいい「ありがとう」が欲しい
「別に感謝されたいわけじゃない」なんて強がっても、本音では「ありがとう」ひとつでどれだけ救われるか知っている。だからこそ、今日もそれを期待してしまう。
「褒められない自分」が嫌になる瞬間
鏡に映った自分が老けた気がした。白髪が増えてる。サトウさんの口癖、「そろそろ白髪染めどうです?」が頭をよぎる。
鏡に映る顔がどんよりしてきたら危険信号
昔はもっとキリッとしてた気がする。元・野球部のキャプテン。声だけはデカかったあの頃。今じゃ、猫背で丸椅子に沈む男。それが司法書士・シンドウの姿である。
愚痴を言いたいけど、言える相手もいない
「こんなにやってるのになあ……」
サトウさんはパソコンと格闘中。空気を読んで黙っているようだ。こっちは心の中で「やれやれ、、、」と五回くらい言っている。
サトウさんの鋭い視線と絶妙なスルースキル
「先生、ひとり言多くないですか?」と突っ込まれてしまう。内心は気づいているのだろう。「褒めてほしいオーラ」全開だということを。
独り言が増える昼休みの弁当時間
弁当のミートボールを見て、「これだけは俺を裏切らない」とつぶやく。誰も笑わない。ツッコミもない。ここは吉本じゃなくて法務局サテライト支部のようなものだ。
心のよりどころはどこにあるのか
最近の癒しはYouTubeで見つけた猫動画。「あくび三連発」とか「寝落ち寸前の子猫」とか、もうタイトルだけで涙腺がゆるむ。
誰かに認められたい気持ちの正体
承認欲求って言葉、なんだか恥ずかしい。でも、人は褒められてナンボだ。褒められない人生なんて、味噌汁のない和定食みたいなものだ。
元野球部の声出しが懐かしくなる午後三時
「いけるいける!ナイス送球!次いこう!」
あの頃の自分に今の自分を見せたら、たぶんこう言うだろう。「声、出していこうぜ!」
猫の動画に「えらいね」って言われた気になる
スマホの中の猫が、まばたきした。なぜか「今日もがんばったね」と言われたような気がして、画面をなでた自分がいる。
褒める側にまわって気づく寂しさ
依頼人をねぎらい、サトウさんを立てる。でも、誰もこちらには何も言わない。そういう役回りなんだ、司法書士って。
「やれやれ、、、」から始まる反撃
やれやれ、、、どうしてこんなに面倒くさい性格なんだろう。
でも、やらなきゃいけない仕事は山積みで、やったところで誰にも褒められない。
だからこそ、今日は自分で自分を褒めようと思う。
自分で自分を褒める練習をしてみた
「午前中で3件処理完了、すごいじゃん俺!」
「サトウさんにお茶入れた、やさしいじゃん俺!」
だんだんクセになってきた。これってもしかして、合法的な自己肯定感?
それでも誰かを支える仕事であるということ
「誰にも気づかれない仕事でも、誰かの安心になっている」
そんなことを思い出して、今日もまた書類を綴じる。猫の動画を再生しながら。
司法書士としての誇りと紙一重の孤独
この仕事は、光が当たらない。だが、闇に沈むこともない。淡々と、黙々と、人生の節目を支える裏方。それが、俺の居場所だ。
サトウさんのボソッとひと言に救われた朝
「先生、昨日の書類、完璧でしたよ」
それだけで、心が跳ねた。ああ、誰かに見てもらえてたんだ。
今日はちょっとだけ、仕事が軽く感じた。