孤独が肩こりより厄介だと気づいた夜

孤独が肩こりより厄介だと気づいた夜

孤独が肩こりより厄介だと気づいた夜

その日、私は朝から妙に肩が重かった。別に重い書類を抱えたわけでもなく、依頼者に怒鳴られたわけでもない。ただ、じわりとした鈍痛が右肩の奥に張りついて離れない。

「これはもう慢性だな」とぼやくと、サトウさんがちらりとこちらを見た。

「肩こりですか?また…」

彼女の言い方は、まるで波平がまたカツオを叱ってるのを聞いたサザエさんのようだった。

「整体でも行ったらどうですか?このへんなら、駅前の“ほぐしの達人”とか」

「やれやれ、、、あそこは前回、担当者が指圧なのに思いっきり叩いてきたんだよ」

サトウさんは無言で書類の山に戻った。ふとした沈黙に、胸の奥がチクリと痛む。

肩こりの痛みなら誰かに話せる

それは事実だ。肩が痛いと言えば「大変ですね」と言ってもらえる。湿布やストレッチの話にもなるし、たまに「私も最近ひどくて」と共感までしてもらえる。だが、

孤独はそうじゃない

誰にも言えない。口にした瞬間、場がしらけるのが目に見えている。サトウさんだって、そんなこと言われたら気まずいだけだろう。だから私は肩こりの話しかしない。

気づけば無言のまま過ぎる休日

土曜日、仕事がなく、テレビをつけても何も頭に入ってこない。チャンネルをザッピングしながら、気づけば昔のアニメ再放送で止まっていた。『名探偵ホームズ』。

「よくこんな明るい推理ものがあったもんだな」と思いながら、どこか自分の事務所も似たようなものかと苦笑する。

ただし、こっちは助手もいなければ事件も起きない。あるのは依頼書と印鑑と、誰にも見えない孤独だけだ。

仕事に逃げるようにして朝を迎える

日曜日の夜になると、なぜかホッとする。月曜からは、少なくとも人と話せる。肩こりの相談だってできる。孤独を埋めるには、忙しさという名の怪盗スケジュールに部屋を荒らしてもらうしかない。

「やれやれ、、、」とつぶやいた夜に

夜、机に突っ伏していたら、蛍光灯の反射で顔がうっすらと窓ガラスに映った。ひどい顔だった。猫背に疲れた目。肩がこってるのは、体じゃなくて、たぶん心だ。

この凝りは、湿布じゃ効かない。サトウさんにも言えない。でも、あした彼女が「おはようございます」と言ってくれるだけで、少しほぐれる。

それが今の私の、唯一の治療法だ。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓