謎の家から始まった
朝一番で事務所の電話が鳴った。受話器を取ると、地元の不動産会社の担当者からだった。
「所有者が誰か分からない物件があって、ちょっと見てほしい」とのこと。
まるでサザエさんのオープニングで波平が怒鳴ってるような、嫌な予感しかしない。
不動産会社からの一本の電話
その物件は、町外れの山手にあるという。築年数不明、名義も不明、登記もなし。
「いやいや、それってただの廃屋じゃ…」と思ったが、詳しく話を聞いていると、
どうも現金で売買された形跡があるという。売却の相談まで来ていたらしい。
所在不明の所有者という違和感
「過去に誰かが住んでいたのは間違いない」と担当者は言う。
だが、法務局で地番を調べても、登記簿は空白。なんならその地番すら今は地図にない。
やれやれ、、、まるで探偵漫画の依頼導入みたいな話だな、とぼやきながら現地へ向かった。
現地に眠る未登記の真実
現場は本当に「ある」と言っていいのか悩むレベルの荒れた土地だった。
倒れかけた木製フェンスと、朽ちた家屋の影。草木に飲まれつつあるが、
家の造りからして、誰かが大事にしていたような雰囲気が残っていた。
崩れかけた平屋の中に
恐る恐る中に入ってみると、家具はそのまま残っていた。
埃をかぶったテーブルの上には、古い新聞と茶封筒。
その中には、なんと土地の売買契約書の写しがあった。ただし、未登記のまま。
名義のない遺留品
契約書には旧字体で「吉村」と書かれていたが、印鑑登録証明などはなし。
その住所も今では変更されており、追跡が困難な状態だった。
これでは不動産会社も動けないはずだ。だが、これで放置もできない。
サトウさんの冷静な観察
「ふーん、これは相続登記放棄の系ね」とサトウさん。
ため息をつきながらも、既に調査資料をまとめ始めていた。
塩対応なのはいつものことだが、こういう時の動きは異常に速い。
権利証が語る過去
調査の結果、かつてこの家はある一人暮らしの男性が購入したが、
名義を変えることなく亡くなり、相続人も手をつけずにいたことが分かった。
いわば宙に浮いた物件だった。権利はあるのに、誰も関与しないまま。
登記簿にない住所の秘密
さらに驚いたのは、契約書に記された住所が、現在の地番体系と食い違っていたこと。
昔の字名や合併によって住所自体が消えていたのだ。
「探偵のくせに、こういう地番のズレに弱いのよね」サトウさんは小さく笑った。
見えない境界線
隣接地の資料を集めていくと、微妙な誤差があることに気づいた。
これは、昔の測量ミスか意図的な改変の可能性がある。
まるで「キャッツアイ」が額縁の裏に隠した本物の絵を探してるような気分だった。
地図にはあるが登記簿にはない
紙の地図には確かに家が描かれているが、登記簿にはその記載がない。
どうやらこの物件、戦後すぐに簡易的に建てられたものらしく、
登記を通さずに引き渡されていたようだ。まるで影の存在のように。
一筆地調査の落とし穴
区画の分割や統合の記録が不正確で、資料が錯綜していた。
「これ、昭和の遺物だよ」とサトウさんがポツリ。
でもその中に、手書きで残された「未登記建物」の欄を見つけたのだった。
やれやれ、、、過去と向き合う
登記簿の奥深く、別の地番に紐づく申請書控えが見つかった。
名前は一致している。相続登記はされていないが、間違いない。
それをきっかけに、相続人の一人と連絡が取れることになった。
元所有者の遺族からの告白
「父はあの家に執着していた。でも戦後の混乱で正式な手続きを嫌っていたんです」
そう語ったのは、神奈川に住む長男だった。
彼は当時の資料や契約書をまだ持っており、それを提供してくれた。
埋もれた贈与契約の痕跡
さらに出てきたのは、一枚の贈与契約書。
それは、亡くなる直前に家と土地を「娘に与える」と記された書面だった。
登記はされなかったが、意思はそこにあった。そして法的に意味もあった。
語られた真実と解決の兆し
遺族の協力もあり、申請準備が整った。
未登記のまま放置された真実が明らかになり、ようやく登記が動き出す。
司法書士としての役目は果たした。いや、最後のひと押しができた。
シンドウの一手が導いた結末
後日、その土地は正式に相続登記が完了し、不動産会社が買い取ることとなった。
「いやはや、幽霊屋敷ってのも案外手間がかかるもんだ」と俺は笑った。
「でも、最後に活躍しましたね」と、サトウさんが珍しく褒めてくれた――ような気がした。