チバンヲケスナ

チバンヲケスナ

チバンヲケスナ

静かな田舎町に起きた異変

盆地に広がる静かな町で、ある朝、地元の地主・北川が事務所に怒鳴り込んできた。
「ウチの土地が、登記簿から消えとるんや!」という一言に、思わずコーヒーを噴きそうになった。
朝から胃が重い日だったが、これはさすがに無視できない。

地主の怒声と古びた地図

持参されたのは、昭和50年の地図と、数年前の住宅地図。そこには確かに「北川農園」とある。
だが、現在の登記簿を確認すると、その地番は存在しなかった。まるでルパン三世が盗んだみたいに、土地ごと消えていた。
「地番変更…ですかね…?」と呟くと、サトウさんが素早く頷いた。

役所の回答は過去の登記簿

市役所の地籍課で調べてみたが、「その地番は平成20年に整理されています」というつれない回答。
だが、整理されたはずの地番が、別の土地に吸収された形跡もない。
「整理したら消えるって、サザエさんの冷蔵庫じゃないんですけど」と俺がぼやくと、サトウさんが無言で書類を突きつけてきた。

サトウさん怒ると地味に怖い

「これは、整理じゃなくて…改ざんに近いです」
そう言って机に叩きつけたのは、過去の地番対照表と矛盾する謄本のコピー。
目が怖い。笑ってないのに背筋が凍る。こんな時、元野球部でもバットは振れない。

境界標のない土地に何がある

実際に現地に行ってみた。雑草が生い茂る空き地のはずが、境界標がひとつもなかった。
土地家屋調査士の記録とも矛盾する。まるでその土地が、初めから存在しなかったかのようだった。
「トリックですね」と呟いた俺に、サトウさんが「今気づいたんですか」と塩を撒くように言った。

相続登記で現れた不審な番号

ちょうどその土地に関する相続登記が3年前に行われていた。
登記申請書には、存在しない地番と、筆界未定の記載。そして相続人は、他の町にいるはずの人物だった。
「名前は合ってるけど、字が違いますね」とサトウさんが指摘する。偽装申請の匂いがした。

元野球部の推理はスリーバント

地番変更→相続登記→所有者移転→現地の整地。
この流れ、まるで盗塁を許すキャッチャーのようだ。俺は気づいた。
「これ、わざと誰かが地番を消して、土地を乗っ取ってる…」

地番変更の落とし穴

登記簿上の地番と、実際の地番が一致しないことを利用して、複数の空地をまとめ、書類上の地番を操作する。
この手法、昭和の終わり頃にも一部で問題になっていたと聞いたことがある。
だが、まさか今でもやっているとは。しかも、地元の調査士が関わっているとは。

調査士の嘘と司法書士の勘

名前を伏せていたが、裏で糸を引いていたのは、顔見知りの土地家屋調査士だった。
数年前に行政処分を受けていたが、弟子の名前で業務を続けていたのだ。
「やれやれ、、、地番をいじるのは、俺の手帳だけにしてほしいな」と、俺は小さく嘆いた。

鍵は十年前の誤記と意図的な申請

過去の法務局の訂正履歴を追うと、10年前に一度だけ、その地番に対する誤記が見つかっていた。
それを利用して、似た地番を持つ他人名義に付け替えた偽装申請。
司法書士でなければ見落としていたかもしれない。

土地家屋調査士のもうひとつの顔

調査士は口を割った。
「俺だって、あの土地のことを知ってたのは俺だけだったんだ…」と泣き言を言いながら。
だが、サトウさんは言った。「でもそれ、犯罪ですよ」

すべては番号を消すための工作だった

目的は、元の所有者の死亡と共に、存在しない地番として処理される土地を、自分名義に持ち込むことだった。
誰も覚えていない番号、記録されない境界、消えた地図。
だが、司法書士の「しつこさ」は想定外だったようだ。

司法書士が地図を正すとき

改ざん部分を全て記録し、法務局に報告した。
北川の土地は無事に復元登記され、怒鳴り声も徐々に減ってきた。
俺も、少しだけ自信を取り戻した。たまには。

サトウさんの無言の拍手

報告書をまとめると、サトウさんがコーヒーを淹れてくれた。
「珍しくちゃんと動きましたね」と、少しだけ口元が緩んだ気がした。
俺はそれを見て、「次の仕事、減ってませんかね…」とそっと呟いた。

地番の裏にある人間模様

数字は嘘をつかない、が、人は嘘をつく。
地番の変更はただの手続きに見えるが、その裏にあるのは人の思惑と記憶だ。
俺は今日も地図を見ながら思う。「やれやれ、、、こりゃまだ終わらんな」

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓