遺言書の相談に訪れた老婦人
予想外の来訪者とその表情
朝10時、事務所のドアがきしむ音とともに現れたのは、小柄な老婦人だった。 身なりはきちんとしているが、どこかおびえたような目が印象的で、手には分厚い封筒を握りしめていた。 「これを…お願いできますか」と差し出されたそれは、遺言書と書かれた封筒だった。
サトウさんの冷たい第一印象
「身元確認はされてるんですか?」とサトウさんの声が冷たく響いた。 老婦人はわずかにたじろいだが、「あの人が亡くなる前に預かって…」とだけ呟いた。 なんとなくその場の空気が硬直し、僕はとりあえずお茶を出して場を和ませることにした。
奇妙な文言と封筒の違和感
封筒に書かれた謎の数字
封筒の裏には「十五二三」とだけ鉛筆書きされていた。 おそらく日付や部屋番号かと思ったが、特に関連のある情報は見つからない。 僕の勘が働くときは、大抵サトウさんが何か指摘した後だ。
もう一通の遺言が存在するかもしれない
開封された遺言書の内容は至って普通だったが、妙に端的で、本来あるべき条項がいくつか欠けていた。 「これ、改訂版かも」とサトウさんがつぶやく。 その可能性に気づいた瞬間、僕の背中を冷たい汗が流れた。
過去の相続トラブルと一致する内容
5年前の類似事件との共通点
僕の脳裏に、5年前に扱ったある相続事件の記憶がよぎる。 その時も、書かれなかった“第六条”がトラブルの火種だった。 そして今回も、ちょうどその位置に違和感がある空白が残っていた。
登記簿に記載されないもうひとつの所有権
もしやと思い、旧所有者名義の登記簿を引っ張り出してみる。 そこには一度も登記されなかった仮契約書の写しが残っていた。 形式上は無効でも、これを逆手に取れば立派な罠になる。
依頼人の急死と残された空き家
遺言を届ける前に姿を消した理由
老婦人が言った「亡くなる前に預かった」という言葉が急に現実味を帯びる。 つまり、本来この遺言は本人の意思として発効すべきでなかった可能性がある。 不正使用、もしくは強要された偽造かもしれない。
警察も首をかしげる不審死の状況
死亡届と検案書を確認したところ、死因は階段からの転落死だった。 ただし、司法解剖はされておらず、証拠も残されていない。 「なんか、、、ルパンに出てきそうな展開ですね」と僕が言うと、サトウさんは鼻で笑った。
鍵を握るのは“押印されていない遺言書”
日付が未来になっている不自然な書面
不審に思い再確認したところ、日付が「来週」になっていた。 そんなはずはない。これは明らかに偽造の証拠である。 しかし、なぜそんな初歩的なミスをするのか、謎は深まった。
サトウさんの一言で道が開けた
「未来日付にすることで、本物が発見されたときに差し替えができるようにしてたんじゃ?」 まるで名探偵コナンの“トリック暴きシーン”みたいにサトウさんが冷静に推理を語る。 僕は、なるほどと深くうなずいた。
封筒の裏側に記された暗号
“B面”に仕掛けられたメッセージ
封筒を裏返すと、折り目の隙間に小さなメモ用紙が差し込まれていた。 「彼女を信じるな」と書かれていた。 老婦人のことなのか、それとも別の“彼女”なのか、判断は難しい。
司法書士は謎解きの専門家じゃないけど、、、
「僕、司法書士なんだけどなぁ…」 そうつぶやきながらも、結局最後には僕がこの謎の大筋を整理していた。 やれやれ、、、いつも肝心なところでこうなる。
密室の真相と見えてきた人物像
亡くなったのは誰の策略だったのか
結果として、亡くなった男性は老婦人の遠縁であり、資産の一部を譲るはずだった。 だが、遺言に手を加えたのは別の相続人だったことが分かる。 その人物は既に海外に逃亡していた。
財産目当ての犯行かそれとも復讐か
動機は単なる金銭目的ではなく、どうやら過去の確執があったらしい。 封筒の裏のメッセージも、その人物が残した最後の良心だったのかもしれない。 なんとも後味の悪いエンディングだった。
登記の提出タイミングに仕掛けられた罠
申請の時間差で相続の権利が変わる
登記を早く提出した者が権利を得るという、登記の原則。 そこに目をつけて偽の遺言で登記を先に済ませようとしていたのだ。 だが、未来日付の不備がそれを阻んだ。
やれやれ、、、また紙一重で助かった
本物の遺言が発見され、登記も正当な形で修正されることになった。 「ギリギリでしたね」とサトウさんが言う。 やれやれ、、、また今回も紙一重で正義が勝った。
真犯人の告白と意外な結末
遺言は二重の意味で使われていた
真犯人が残した本音のメモが、封筒の中に見つかった。 それは亡くなった男性宛の手紙で、恨み言と謝罪が入り混じっていた。 どうやら、犯人も最後は迷っていたらしい。
サザエさんの最終回みたいな皮肉な展開
「こんな話、サザエさんなら最後は“じゃんけんぽん”で終わるんだろうな」 僕が冗談を言うと、サトウさんが珍しくクスッと笑った。 皮肉だが、それでも日常は続いていくのだ。
忙しさにまぎれて忘れた昼ご飯
サトウさんが差し出したコンビニおにぎり
その日の夕方、気づけば昼食をとっていなかった。 「どうせ食べてないと思って」と差し出された梅おにぎりが妙に沁みた。 普段は塩対応なのに、こういうときは優しいのだから困る。
それでも今日も事務所は回る
電話は鳴り、郵便物が届き、また次の依頼人が訪れる。 事件が解決しても、僕らの仕事は終わらない。 やれやれ、、、明日もまた登記と謎解きの一日だ。