ポストの中の共犯者

ポストの中の共犯者

朝の郵便受けと不在通知

目を覚ました司法書士の憂鬱

朝、いつものように眠気まなこで玄関を開けた僕は、ポストに差し込まれた赤い不在通知票に気づいた。
差出人の欄には「M.K」とだけ書かれており、どうにも胸がざわつく。最近、妙に胸騒ぎがすることが多い。
別に恋でもしてるわけじゃない。そもそも、モテないし。むしろ心当たりがあるのは、最近扱ったちょっと物騒な遺産相続案件だ。

赤い不在票に書かれた謎の宛名

不在票の宛名は、確かに僕の事務所の住所だった。だが、宛名の名前が違っていた。「依頼人S様」――見覚えのある名だ。
それは数週間前に突然来所し、妙に急いで遺言書の内容を変更した男性だった。確かにどこか怯えていたような気がする。
やれやれ、、、また面倒なことに巻き込まれているような気がしてならない。

相談人と不在通知の奇妙な一致

依頼人が語った受け取れなかった封筒

「先生、昨日ポストに何か入っていませんでしたか?」と相談人から連絡が入ったのは、その日の午後だった。
彼はある人物からの封書を待っていると言っていた。内容は、彼が関与していた古い会社の帳簿に関するもので、
もしそれが公になれば「大勢の人が困る」とだけ言っていた。不在票の件を話すと、彼の声が震えた。

配達日と事件当日の照合

僕は事務所に戻ると、受け取った不在票の配達日時を確認した。配達されたのは昨日の午後三時過ぎ。
奇しくも、その時間に彼は自宅で倒れていたというニュースが、今朝の新聞に小さく載っていた。
亡くなる直前に何かを伝えようとしていたのか。だが、封筒は届いていない。これは偶然か、それとも――。

サトウさんの冷静な分析

字体から読み解く送付者の正体

不在票に書かれた字を見たサトウさんは、即座に「この筆跡、女ですね」と言った。
さらに彼女は「筆圧が強くて右上がり、少しだけ“止め”が甘い。急いで書いたけど慣れてる人の字です」と続けた。
僕はぽかんと口を開けたまま聞いていた。元野球部の眼力とは違う観察力。やっぱり彼女はただ者じゃない。

切手の貼り方に残る癖

さらに封筒に貼られた切手の角度を示す写真を見せると、サトウさんは言った。「この貼り方、妙に斜めだと思いません?」
その角度は、かつて別件で取り扱った不正送金事件の関係者が貼った封筒と酷似していた。
それが偶然かどうか調べる価値はあった。犯人は再び動き出している可能性がある。

やれやれ郵便局まで行く羽目に

引き出された配達記録の矛盾

「配達記録を確認したいんですけど」と郵便局で伝えると、職員の表情が曇った。
不在票のバーコードは確かに発行されていたが、記録上、荷物は「未発送」扱いになっていた。
つまり、何者かが郵便局のシステムを通さずに不在票だけを作ってポストに投函したのだ。

ポストに仕掛けられた罠

僕の事務所のポストは、普通の鍵付きの鉄製ポストだ。だが、数日前に鍵を一時的に外したままにしていた日があった。
その隙をついて偽の不在票が入れられた可能性が高い。狙われていたのは、たぶん僕じゃなくて「依頼人S様」だった。
誰かが、彼の手に届くはずの“封筒”を、届かないよう仕組んでいたのだ。

共犯者は投函していた

真犯人が送った最後の不在通知

数日後、警察からの連絡で決定打が届いた。問題の不在通知票には、内部職員しか使えない印刷コードが使われていた。
それを扱えたのは郵便局員、もしくは関係者。そして、その中に――先日辞職したばかりの女性職員がいた。
彼女は依頼人S様のかつての同僚であり、裏帳簿に関わっていたとされる人物だった。

静かに崩れていく共謀のトリック

彼女はかつての同僚と共謀して、証拠が書かれた手紙が依頼人に届かないよう工作していた。
だが、不在票に記された筆跡と切手の貼り方、そして配達記録の齟齬がすべてを物語っていた。
やれやれ、、、こんな地味な手口に時間を取られるとは思わなかった。だが、真実は必ずポストの中に残る。

それでも明日は配達される

事件が残した手紙と、いつもの朝

事件は静かに終わった。依頼人の死は事故扱いとなったが、彼の残したメモにはこうあった。
「届くかどうかはわからないが、それでも送る」――彼の正義感が、すべてを暴いたのだ。
次の朝、またポストを開ける。請求書と広告の束。でも、どこかホッとしていた。郵便は、真実を運ぶ。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓