封筒の裏の真実

封筒の裏の真実

封筒の裏の真実

朝届いた三通の封筒

司法書士事務所に朝届いた三通の封筒は、どれもどこか不自然だった。差出人はそれぞれ異なり、用途もバラバラ。しかし、一つだけ、どこか粘着力の足りない封筒があったのだ。封が剥がれかけたような、あるいは貼り直したような跡が妙に気になった。

印紙が剥がれていたという電話

昼前になって一本の電話が鳴った。声の主はやや興奮気味の男性。「そちらから送られてきた書類の印紙が剥がれていた」と怒っていた。こちらで貼った時はしっかりしていたはずだ。なのに、剥がれていた?そんな馬鹿な。

サトウさんの静かな観察

電話を切ると、サトウさんが静かに封筒を見つめていた。長いまつげの奥の目が、じっと封筒の角を見ている。「糊のあと、二重になってますね。これ、貼り直されてますよ」。まるで怪盗キッドの変装を見破った名探偵のようだった。

過去の依頼と一致する癖

ふと、過去のある依頼者の筆跡が頭をよぎった。封筒に書かれた宛名の「崎」の字のハネ方が妙にクセのあるあの男。昨年、相続の相談に来たが、結局こちらでは扱わなかった。「やれやれ、、、」また面倒なパズルが始まりそうだった。

切手と印紙の境界線

その封筒には切手も貼られていたが、どこか位置が妙だった。通常なら右上にきっちりと貼るはずが、印紙の真下、封筒の裏近くにまでずれている。まるで誰かが封筒を逆さまにして貼ったようなズレ。これはトリックか、それともうっかりか。

なぜ貼り直されたのか

印紙の剥がれは偶然ではない。糊の跡がそれを物語っている。もしかすると、誰かが印紙を一度剥がし、中身を見た上で貼り直したのではないか。まるでルパンが金庫を開けたあと、そっと戻しておくかのように。

机の角に残る糊の跡

事務所の机の角で何かが擦られた痕跡があった。ほんの微細な糊の残り香。封筒がこすられ、そして再び封がされたのだ。しかも、業務用のスティック糊ではなく、家庭用の液体糊。この違いがのちに決定打となる。

サザエさん的勘違いからの発見

思わず「波平さんが印紙貼るとこ見たら怒りそうだな」と呟いたら、サトウさんが呆れた顔で「波平じゃなくてマスオのタイプですね」と切り返した。その何気ない会話のなかで、私は気づいた。「貼る場所」が間違っているのではなく、「貼る意図」があったのだと。

司法書士は封筒のにおいをかぐ

なんとなく封筒に鼻を近づけてみた。微かに接着剤のにおいがする。しかも妙に甘い香りだ。これ、通常の事務用品ではない。おそらく市販の子供用の糊だ。つまり、この封筒は、事務所の外で誰かが開封し、何かをしたあと、再封された。

やれやれ事件か冤罪か

自分のせいではないと信じたい。が、こうした案件では「誰が」「何のために」がはっきりしない限り、こちらの責任になりかねない。「やれやれ、、、」溜息交じりにコーヒーをすすりながら、次の一手を考える。元野球部の勘が働き出した。

本人確認と記載された住所の謎

調べてみると、差出人の住所は存在しない番地だった。これは登記でよくある「未確定地番」を装った偽住所の典型。送り主は本物ではない。これはつまり、封筒そのものが偽装されていたことを意味している。

管理人の証言と昼下がりの記憶

その封筒が投函されたアパートの管理人に話を聞くと、「ああ、昨日の昼にスーツの若い男がポストをまさぐってたよ」とのこと。つまり、封筒は一度投函された後、途中で抜き取られ、印紙だけ剥がされ、再び戻された可能性が高い。

サトウさんの冷静な一言

「つまり、その印紙の60円分を手に入れるために、封筒を開けたってわけですか」。サトウさんがぼそりとつぶやいた。いや、印紙の価値は60円ではない。そこに貼られた「日付」と「押印」の情報が欲しかったのだ。

糊付けの角度が語る事実

封筒の蓋の角度、糊の伸び方、わずかなシワ。それらは完璧な証拠になった。再封の角度が微妙に違う。封筒が一度開封されたことは明白だった。これで依頼者に責任がないことを証明できる。まさか、こんな形で封筒が語りだすとは。

真犯人は意外な人物

犯人は、同じ建物内に入る別の事務所の新人事務員だった。たまたま印紙の貼られた封筒を見つけ、「押印済の印紙は転用できる」と誤解していたらしい。犯意は低く、好奇心からの行動だったが、法的には十分な問題だった。

封筒が語った真実の終着点

私は封筒を手に取り、大きく息を吐いた。「やれやれ、、、こんなところにもトリックが潜んでいるとはな」。サトウさんは「せめて封は真っ直ぐ貼ってほしいですね」と言って帰り支度をはじめた。今日は久々に、まともな推理ができた気がする。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓