代理人は嘘をつく

代理人は嘘をつく

朝の着信と謎の依頼

眠気の残る声と妙な言い回し

早朝7時23分、固定電話の呼び出し音で目を覚ました。まだ半分夢の中で受話器を取ると、相手はやけに丁寧な口調の男だった。
「私、後見人を務めております〇〇と申しますが、登記のことでご相談がありまして…」
この時間にそんな相談?何か急ぎの事情があるのか、それともただの非常識か。シンドウの脳裏には前者と後者が半々で浮かんだ。

法定代理人からの相談

男の話は長く、どこか要領を得なかったが、要するにある被後見人の名義で不動産登記をしたいという。
ただし、委任状が必要であり、それをこちらに作って欲しいのだという。
司法書士として法定代理の手続きは珍しくないが、なぜか胸に引っかかるものがあった。

依頼書に潜む違和感

サトウさんの冷静な観察

「先生、これ、委任状が2通ありますが、署名が微妙に違います」
出勤してきたサトウさんが、一瞬で問題の核心を突いた。いつものように塩対応だが、その観察眼は鋭い。
確かに筆跡が微妙に異なる。書いた人間が違うと断定はできないが、少なくとも怪しい。

筆跡と印影の微妙なズレ

さらに印影を確認すると、位置がわずかに斜めにズレていた。
法務局の職員なら見逃すだろうが、我々プロには違和感がはっきり見える。
「これ、もしかして、別の印鑑証明を切り貼りしてるんじゃないか?」とシンドウはつぶやいた。

登記申請書類の闇

委任状に記された不自然な日付

「この日付、被後見人が入院して意識がなかった時期と重なります」
サトウさんが調べた病院記録から、署名日が現実的に不可能であると分かった。
法定代理人がそんな事実を見落とすはずがない。意図的だ。

亡き被後見人の存在感

その後の調査で、被後見人はすでに亡くなっていたことが明らかになった。
にもかかわらず、「生存中に署名した」と言い張る依頼人。これは完全にアウトだ。
死後に登記手続きを進めるとは、まるで幽霊に実印を押させたようなものだ。

調査開始と意外な訪問

施設職員の証言

シンドウとサトウは施設を訪ね、元被後見人の最期を看取った職員に話を聞いた。
「意識が戻ったのは一度もありませんでした。ずっと点滴だけで…」
これで依頼人の言い分は完全に崩れた。

行方不明の後見登記ファイル

法務局で確認を取ろうとしたが、なぜか後見登記の写しが提出されていないという。
原本も存在しない。これはかなりの手練れだ。書類をわざと出さなかった可能性もある。
サザエさんで言うなら、ノリスケさんが「誰の許可を得てこの家に入ったんだ?」とキレるレベルのやらかしだ。

サザエさんに似たその構図

「本人の同意を得ているから問題ない」は通じない。
このセリフ、最近の相続トラブルでよく聞く。だが、司法書士にとっては赤信号の合図だ。
法定代理人はルールの下でしか行動できない。感情ではなく、証拠と制度がすべてだ。

元野球部のひらめき

印鑑証明書の有効期限を見逃すな

疲れた頭で印鑑証明書を見直したシンドウは、ある矛盾に気づいた。
「これ、交付日が亡くなった3日後になってるじゃないか…」
「やれやれ、、、」と思わず声が漏れた。まるで三振のあと、ベンチで気づいたサインミスのような感覚だ。

交錯する法定代理人と任意代理人

複数の委任状の存在

法定代理と任意代理、両方の立場を使い分けていた依頼人の手口が徐々に明らかになった。
一方では法定代理として後見登記を使い、もう一方では任意の委任状を装っていた。
まるで二重スパイ。いや、怪盗キッドもびっくりの芸当だ。

サトウさんの一喝と核心

「これは代理じゃなくて偽造よ」

「先生、これはもう警察に通報すべきです。完全に犯罪です」
いつもの冷静な口調のまま、しかしその目は鋭かった。
「ここまでやられたら、司法書士として黙っていられません」とサトウさんは言い放った。

決定的証拠と告白

やれやれ、、、やっと吐いたか

依頼人は、警察に呼ばれたその日の午後、ようやく「魔が差した」と認めた。
本人曰く「財産を守るためだった」とのことだが、それは制度の外でやってはいけないことだ。
「やれやれ、、、」とまたつぶやいたが、今度は妙に心が疲れていた。

事件の結末と心の疲労

後見制度の落とし穴

正義を貫くには、紙と印鑑だけでは足りない。
その裏にある人間関係や感情が、どれほど登記の場をかき乱すかを思い知らされた。
制度の網をすり抜ける者は、どんな時代にも現れる。

ひとり分の夕食とため息

その夜、スーパーの半額弁当を温めながらシンドウは思った。
また一人、誰かを守れたかもしれないが、同時に誰かを傷つけたのかもしれない。
冷えた味噌汁をすすりながら、彼はただひとことだけつぶやいた。「サトウさん、やっぱすごいな…」

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓