誰がために名を連ねる

誰がために名を連ねる

名義の向こうにあるもの

「あの土地、共有名義なんですけど……」
依頼人の言葉に、どこか釈然としない感覚が残った。
司法書士として共有名義には慣れている。しかしこの依頼は、何かが違った。

法務局の窓口にて

いつものように法務局の端末を叩いて登記簿を確認する。
所有者は二人、持分は二分の一ずつ。だが、何かが引っかかる。
名義人の一人が、すでに三年前に亡くなっていた。

共有名義の妙な違和感

相続登記がされていないのかと思ったが、そうではなかった。
死亡後にも関わらず、その名義で動いた形跡がある。
まるで死者が書類に署名したような、不気味な痕跡だった。

サトウさんの沈黙

事務所に戻ると、サトウさんがコーヒーを飲みながら何かを考えていた。
「何か気になることでも?」と聞くと、彼女はモニターを指差した。
「この登記、過去の筆跡と最近のが微妙に違いますね」

ひとこと多い依頼人

依頼人の話をもう一度思い出す。
やたらと亡くなった名義人について話したがる割に、感情がない。
まるでその死を、自分の都合に利用しているような口ぶりだった。

元恋人が所有者

調べるうちに分かったのは、亡くなった名義人と依頼人がかつて交際していたこと。
そして土地を購入した直後、突然破局し、名義だけがそのまま残った。
まるで過去の愛情の墓標のような共有名義だった。

死者の名が動く時

「司法書士さん、サインだけすればいいんでしょ?」
依頼人が言ったその一言が決定打だった。
我々はただの手続き屋じゃない、真実を見抜く目が必要だ。

登記簿上の小さな矛盾

登記簿の原本と、添付書類の筆跡が一致していない。
それに気づいた瞬間、背筋に冷たいものが走る。
やれやれ、、、またか。死人を使って動かそうとする不届き者め。

「遺産トラブル」では片づかない何か

これは単なる遺産トラブルではない。
依頼人は故意に筆跡を模写し、売却益を独り占めしようとしていた。
しかも、名義人の死亡届もわざと出していなかった可能性がある。

サザエさんの不動産回より複雑な関係

まるで、サザエさんが三軒隣の波平名義の土地を勝手に売ろうとしてるみたいだ。
家庭的であっても、名義の前では誰もが別人になる。
この案件、コメディじゃ済まされない。

登場人物は三人に非ず

調べれば調べるほど、見えてくる影の数は増えていった。
他にも関係者がいる。亡くなった名義人の弟、そしてもう一人。
依頼人がかつて不動産業者に紹介された人物。全てがつながり始めた。

土地より重い感情の行方

「彼女が死んでも、土地は俺のもんだと思ったんですよ」
依頼人が漏らした言葉に、怒りというよりも虚しさを感じた。
土地よりも執着したのは、消えた愛か、取り戻せなかった過去か。

司法書士の推理

証拠が揃った。あとは、まとめて突きつけるだけだ。
事務所の電気がまぶしい。サトウさんは無言で書類を綴じた。
「さあ、決着をつけましょうか」彼女の一言で、背筋が伸びた。

やれやれ、、、書類は語る

人間は嘘をつくが、書類は正直だ。
公証された事実を一つずつ見直せば、真実は隠しきれない。
やれやれ、、、この仕事、性善説ではやっていけない。

二人の名義に潜む第三の意志

筆跡を模写したのは、依頼人ではなかった。
不動産業者が勝手に偽造し、依頼人も知らなかったことが発覚した。
すべては利得のため、死者の名を使った悪質な登記トリックだった。

最後の筆を入れるのは誰か

依頼人は逮捕されずに済んだが、取引は白紙に戻った。
偽造を主導した業者は書類送検され、不正の証拠は全て法務局へ。
そして、登記簿には新たな相続人の名が正しく記された。

真犯人の目的は名義ではなかった

後日、業者が語った一言が印象に残った。
「土地じゃないんですよ、問題は。あの二人の関係がこじれてたんです」
名義とは、心の境界線でもある。そこに踏み込んだ時、悲劇が始まるのだ。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓