消された登記と止まらない請求
朝の郵便物と不穏な封筒
サトウさんの無言の視線
朝の事務所。俺の机の上に、いつものように郵便物の束が無造作に置かれていた。だが、その一番上の封筒を見た瞬間、サトウさんがジロリと俺を見た。その視線がいつもより1度冷たい。
差出人は「オフィスリンククラウド株式会社」。まるで聞いたこともない名前だったが、件名には「重要 ご契約内容のご確認」とある。何かが嫌な予感を告げていた。
やれやれ、、、また面倒ごとの予感がする。
見覚えのない契約通知
封筒を開けると、そこには「登記管理連携サービス」の更新通知が入っていた。しかも自動更新で年間7万8千円。契約した覚えなど一切ない。だが、俺の名前がしっかりと記載されている。
「これ、先生が契約したんですか?」とサトウさん。声は丁寧だが、目が完全に尋問官だった。
まったく記憶にない。これは、妙だ。
調査の始まりと登記簿の違和感
所在地の記録に異変あり
念のため、最近関わった不動産登記の案件を確認する。すると、登記簿の備考欄に見慣れない文言。「クラウド連携機能適用」とある。こんなもの、見たことがない。
書式にも微妙な違和感がある。どうも通常の登記ではなさそうだ。
「この表記、正式な登記情報と違いますよ」とサトウさん。さすがである。
シンドウのうっかりと職権の重さ
どうやら俺が出した登記申請書に、無意識に別紙を添付していたらしい。というか、どこかで偽の書類を挟まれていた可能性もある。
「またですか」――サトウさんの無言のため息が聞こえた気がした。だが、このうっかりが大事件の入り口だったのだ。
職権でやれることにも限界はある。だが、ここは譲れない。
定期課金サービスと不動産情報
登記情報と結びつく契約データ
どうやらこの「登記管理連携サービス」とは、登記簿の内容と連動してクラウド上で物件情報を管理できるというサービスらしい。
便利そうに見えるが、問題は、勝手に契約が「成立」していた点にある。
しかも、キャンセルは2ヶ月前にしかできないというトラップ付きだ。
あの怪しいチラシの正体
思い出した。先月、業界紙に挟まれていた派手なチラシだ。「無料トライアル」と書かれていた。あの時、何気なくQRコードを読み込んだ気がする。
まさか、それが「利用規約同意」となっていたとは。
まるでサザエさんのカツオが宿題をやったふりをしてバレるレベルのうっかりである。
地主の息子と謎の法人
消えた名義と残る請求
問題の土地は、先月名義変更が終わったばかりの案件だった。だが、旧所有者に届くはずの契約確認書が、なぜか俺の事務所に届いていた。
その名義変更の依頼主――地主の息子が、どうやらこのサービス会社と裏でつながっていたらしい。
新旧の名義情報をつなぐタイミングで、何かを仕込んでいたのだ。
証拠はサザエさんの録画にあり
ふと、サトウさんが「先週の日曜、サザエさん見ました?」と聞いてきた。いや、見てない。
録画を確認すると、そこに「オフィスリンククラウド」のテレビCMが。しかも最後に「司法書士様向け特別連携モード」とのテロップ。
そのCM、地主の息子が出ていた。
事件の鍵はリース契約に
システム利用規約の罠
契約書を見ると、利用規約の第14条に「初回登録時点で正式契約とみなす」との条項。しかもこの規約は、変更されることがあり、変更後も継続して使えば同意とみなすという強引仕様。
こうして、知らぬ間に多くの司法書士が「契約済み」にされていたのだった。
この商法、許せん。
不動産管理アプリの落とし穴
そして最終的に、このアプリと登記システムが、API連携されていることも発覚。便利だが、裏を返せば不正の温床にもなる。
俺は法務局に事実関係を報告。サトウさんは、証拠を持って弁護士に託した。
こうして、一件落着、、、なのか?
夜の張り込みと意外な結末
塩対応の正義の一撃
夜、俺とサトウさんは例の会社の前で張り込み。出てきたのは例の地主の息子。こっそりUSBを持ち出そうとしていた。
その時、サトウさんが静かに近づき、こう言った。「おや、登記の続き、お忘れですか?」
そのまま警察に引き渡し。完璧だ。
やれやれ、、、結局動いたのは俺か
疲れた身体を引きずって事務所に戻る。ソファに座った俺に、サトウさんが紅茶を差し出す。いや、毒入りじゃないよな?
「全部、先生のせいですからね」――その一言で、今日も平和だったことを知る。
やれやれ、、、司法書士ってのは、楽じゃない。